『理解されないビジネスモデル-消費者金融』(時事通信社)

あまり普通の人は読まない本かもしれません。ただ、日本社会の病理を理解するには、この業界のことを理解しておく必要があると思います。先日ご紹介した、『反貧困』(岩波新書)とも関連してきます。(もうひとつ、理解すべき業界の一つとして、パチンコ業界もあります。)

この本は、貸金業法の改正に関して、消費者金融業界の人たちの意見や反省を集めたものです。すべての業界には、光と陰があります。消費者金融ももちろん例外ではありません。それどころか、多重債務者問題のように、恐ろしいほどの陰が一部では存在しています。80年代後半のバブル時期大ベストセラーになった、漫画『ナニワ金融道』を読めば、ものすごい勉強になります(漫画を読まない僕ですが、この作品は全巻読みました)。

もうひとつ、面白い話がこの本にあります。貸金業法の改正にあたった金融庁の担当の方が、インタビューにでています。借り手のリテラシーの低さが、多重債務者を生んでいる背景にあるとされています。ご自身も、2%の金利でも、長期の住宅ローンの返済において、奥様から指摘されるまで、金利負担の大きさをよく考えていなかったというお話をされています。ある意味、監督にあたる役人の方々が、金利感覚をお持ちになられていない、あるいは実務に基づいた感覚をお持ちではないことが、滑稽であると同時に、恐ろしいことだと思いました。(株式投資をやらない方が、証券ビジネスの監督にあたることと同じように。) 頭のいい人たちであればあるほど、現場の感覚が大切ですから。

アオテンストアby amazonに、黒犬通信で取り上げた本をまとめてあります。

『ほんとうの環境問題』(池田清彦、養老猛司著)

 先日東京ビッグサイトであったWeb2.0のイベントにいったら、来客者の名刺と交換に、エコバッグを配っている会社がありました。去年は、有名なイギリスの鞄デザイナーによるエコバッグを買うために、伊勢丹の前に早朝から並んだ女性たちが大勢いて、買えなかった成金女が店員にくってかかったという話を聞いた覚えがあります。
 環境のことを本当に考えているのなら、エコバッグなんてまず作らないこと!だって、バッグを一つも持っていないなんて人は、もう、いないんだから。ものを作ると、エネルギーを新たに消費し、環境の破壊につながっていきます。無駄なものは買わない、作らない、買わせない。広告代理店のひとたちには申し訳ないけど、つまらないキャンペーングッズなんかも、できるだけ作らない方がいいと思うんだけど。
 この本『ほんとうの環境問題』は、主義主張のため、ロマンチシズムのため、ブームに乗るため、意識が高くて優しい人と思われるため、そんな理由から、環境問題を口にしている、そんな人たちが読んでみるといい本。
 地球温暖化のことがいろいろと話題に出ますが、実は、事実関係がまだよくわかっていないということを最初に押さえておいた方がいいと思います。本当に温暖化が進んでいるのかということからして、科学者の間でも議論が分かれていること、マスコミは温暖化など進んでいないという議論をあまり伝えようとはしないことを、覚えておくべき。今の時代、温暖化が進んでいるという記事の方が売れますからね。

 それから、8月の洞爺湖サミットで、環境問題に関して、つまらない約束をしないことを祈っています。京都議定書で自分の首を絞めるようなCO2削減のコミットメントを行いましたが、再度、議長国ということで、大盤振る舞いをするのではないかと危惧しています。そして、マスコミの多くは、それをよしとするのではないかと。

 

『反貧困』(湯浅誠著、岩波新書)

決してODAの本ではありません。日本国内の貧困問題の話です。日雇い労働者の過酷な話がいくつか出てきます。

 この本は、現在の日本社会の一面を正確に描写しているのかと思います。僕らのオフィスが入っている新東京ビルの周り、東京駅京葉線地下には、たくさんの中高年、老人のホームレスたちが存在しています。毎日、彼らの姿を目にしています。一見華やかになった丸の内ですが、地下にはそのような人たちが多数存在しているのが、現実です。

 気軽に転職やフリーターになることをそそのかすような人材紹介会社の広告などをみるたびに、若いひとたちに、どのような影響を与えているのかと思います。就職しなくても、「家にいればいいよ」という物わかりのいい親も増えていると聞きます。これまで当然だったことが、当然ではなくなりつつあるのでしょうか?

『アイラブエルモ』が雑誌で取り上げられています

アメリカン・ブック&シネマの出版プロジェクト第一弾の『アイラブエルモ』。女性雑誌で取り上げられています。日経ウーマン6月号104ページ、GLITTER6月号の142ページ。このGLITTERという雑誌、初めて知りました。

アイラブエルモの購入は、こちらから→アオテンストアby amazon

『秋田犬の父ー澤田石守衛』(木楽舎)

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先日ご紹介したDog Man こと、澤田石守衛さんを紹介した日本語の本を、本日、アマゾン(古書)で入手。こちらの表紙は、澤田石さんの笑顔と秋田犬が、表紙を飾っていて、まったく違った雰囲気になっています。Dog Man の表紙に使われた写真も、この『秋田犬の父ー澤田石守衛』の中に含まれています。同じ人物を取り上げた二つの本の作り方、伝えようとするものの違いが、表紙に現れているように思います。

"Dog Man" by Martha Sherrill

アメリカ人の作者によって初めて僕は、澤田石守衛さんという、秋田犬の保存につとめられた方の存在を知りました。この本は、秋田県の人たち、秋田犬を愛する人たちだけでなく、日本犬が好きなすべての日本人が読むべきだと思いました。そして、生きること、家族、自然、動物、そんなことを考えたい人すべてが。

この本は、以下のような、すばらしい文章で始まります。
There are mountain villages and green valleys throughout Japan, and very few people live in them. The cities teem and buzz with life-each year with increasing speed and sophistication, more crowds and smaller cell phones and a dizzying parade of man-made pleasures. But far away, the snow country world moves quietly, almost forgotten except as a dream This is the story of that dream. It's about one man's devotion to a place and way of being, however preposterous it may seem to others, and how he gently, and not so gently, steers his life there.
もうひとつ、こんな文章も強く記憶に残りました。
In the morning when the dogs bolted from their kennels and followed Morie into the woods, it seemed as though they were disappearing to a magical land, to another time. Their territory seemed boundless, miles and miles of green meadows, forests of towering cedars, and mountain peaks with sheer cliffs. The dogs craved the wild, Morie always said. It kept their instincts sharp, their spirits strong. It kept them from complacency and spiritual decline. Being in the wild reminded them who they really were-and the amazing deeds they were meant for. It was an antidote to the convenience and comfort of modern life. Kitako wondered if people didn't need the wild too.

僕はこの原作に基づいて、映画が作られないものだろうかと思います。澤田石さんは、三菱グループの会社に勤めながら、終戦から退職まで、ずっと東北地域で発電所の建設プロジェクトに関わられてきたそうです。現在では、年齢も90歳を越えた方です。自然とその一部である秋田犬をこよなく愛した人生に、乾杯!

朝日新聞記事(澤田石さん紹介)Dog_man_book_cover

『会社の値段』(森生明著、ちくま新書)

 やさしい言葉で、会社の価値や企業統治に関して、考えるヒントを提示してくれている本です。書かれたのは、2005年末のようですが、この本のなかで提示されている著者の意見や疑問は数年後の今も日本の現状には当てはまります。

 

 例えば、普段なにげなく使っている、「企業価値」と「株主価値」の違いを説明できる人、これらについて、自分なりの考えを持っている人がどれだけいるでしょうか?  著者の指摘の通り、日本で使われる「企業価値」は漠然と使われています。「株主価値」のように、数字で明確に示しうるものではないように思えます。そのあいまいさの陰に日本の経営者たちは逃げ隠れ、株価で表される企業の価値を上げていく努力を怠ってきたと言えます。隠れた価値を見つけだし、安く買い高く売ろうとする「ハゲタカファンド」に対する感情的反発からは、自信のなさと努力不足をそのままにした「嫉妬」を感じます。

 

 先日、外資企業が、本国の株式を使いながら、日本にある子会社を通して日本企業を買収する、いわゆる三角合併は、法律で可能になって以来、まだ一件しか成立していないという記事を読みました。日本の資本市場の閉鎖性の一例でしょうか。

『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか―アウトサイダーの時代 』(城繁幸著、筑摩新書)

 前著『若者はなぜ3年で辞めるのか』からの読者です。本書も共感を持って読ませてもらいました。
 
 (著者もそのひとりですが)東大卒業の人間が、学歴社会を批判的に論ずると、必ずでてくるのが、「東大卒の人間に学歴社会の問題を指摘する資格があるのか」というような反応。東大でたからと言って、ビジネスの世界で成功している人は少ないなと、これまでの経験から思います。特に、自営業や起業の分野で、成功している人は絶対的に少数です。逆に、東大卒のプライドが、起業や自営にはマイナスになることが多いかもしれません。日本社会が、圧倒的にサラリーマン社会になってしまっていることが、議論の閉塞感の根本にあると僕は思っています。サラリーマン(含む公務員)として生きていくことが唯一の選択肢と思い込んでいる日本の悲しさ。議論もすべて、その枠の中で、生涯賃金がどうのこうのという、現状が永遠に続くという前提にたち、かつ、夢のないレベルでの話になっています。会社説明会などでも、安定しているから公務員志望などという学生の話を聞くと、君はもう棺桶に入っているね、と言ってあげたくなります。

 著者には、弊社のポッドキャスティング、「アイディア・エクスチェンジ」に登場していただく予定になっています。お話をお聞かせいただくことを、非常に楽しみにしています。

 

『危ない格言』(榎並重行著、洋泉社新書)

3年ほど前に出た本です。チューリップや白鳥たちを意味もなく殺していく人間がいることを新聞記事で読んだとき、この本の中のこんな言葉を思い出しました。

「われわれに、われわれ自身を止める能力がどうにかして備わるように」-人間への祈り。

インターネットで匿名のまま他人を攻撃するひとたちには、このような言葉が用意されています。(すこし長い引用になります)

匿名で、特定の相手を口汚くののしり、中傷し、人格や性質に至るまで全否定するような文章を、情報技術媒体などに載せる者たちは、何よりも彼ら自身が注目されることを求めている。他のやり方では、ついにそれを得ることがかなわなかったという恨みに基づく、復讐心の発散のために。しかし、もっとも醜い憎悪と嫉妬をさらけ出すことでしか、それを行うことができないということを見透かされる恥辱を先廻りして逃れるためには、彼らは匿名の陰にうずくまる以外にない。

著者は高校時代から、ニーチェやフーコーの読者だそうです。ビジネスのご経験があるのかどうか、そんなことは本からはまったくわかりませんが、以下のような言葉は、ビジネスマンの僕も非常に同意することで、なおかつ、成功する起業の本質をとらえていると思います。

その内容がどんなに貧弱でも具体性を備えたものに惹かれる者たちは、事業家に向いている。その内容の尽きせぬ豊富さ故に抽象性に誘惑されるものたちは、計画のひたすらな立案者にしか向かない。

編者からの挨拶のなかに、「痛烈な批判と諧謔に彩られている」、「格言集としては類を見ない毒気に満ちたものになっている」とありますが、少々、誇張が入っているように感じました。それは僕が、鈍感な読者だからかもしれませんが。

最後に、すべての人、特に若いひとたちには以下の著者の言葉を贈りたいと思います。

君が君の人生に何を求めるにせよ、一度は君の人生に君が何を与えたかを点検してしかるべきだろう。

・自分を探すくらいなら、自分をつくればいい。

黒犬通信で取り上げた本

黒犬通信で取り上げた本の一部ですが、アオテンストアby amazonにまとめてみました。

よかったら、こちらもご覧ください。タンタンのシリーズはすべてリストアップしています。タンタンは子供のための絵本ではなく、大人のための絵本です。内容は大人が読んでこそ、理解できるものになっています。騙されたと思って、一冊、読んでみてください。

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