幸田露伴著「努力論」(岩波文庫)

正直言うと、明治の文豪、その中でも漢文でもあるまいに、漢字連発の文章を書いた文豪たちは、大の苦手です。ちょっと漢字を勉強した程度では、歯が立ちません。英語の文章を読む方が、よっぽど簡単です。

幸田露伴は、僕が苦手とする明治の文豪のひとりです。
それから、この本のタイトル『努力論』というのが、まったく時代錯誤です。さすが岩波文庫!(こんなタイトルつけていては、売れないですよ)
ところがこの本、つまらない「努力論」ではないのです。幸田露伴による、幸福論であり、仕事論であり、人間論なのです。そして現代のわれわれにも大いに当てはまることがたくさん書かれています。たとえば、以下のような文章は、まさに同時代だと思いませんか?(読みやすくするために、一部の漢字をひらがなにしました)
「ことに近時は人の心はなはだ忙しく、学を修るにもことをさくすにも、人ただそのすみやかならんことを力めて、その精ならんことを期せぬ傾がある。これもまた世運時習のしからしむるところであって、直ちに個人を責むることはできないのである。しかし不精ということは、ことの如何にかかわらずはなはだ好ましからぬことである。」(「修学の四標的」明治44年3月)これなんて、忙しさにかまけて、適当な仕事になりがちなわれわれへの警告だと思いません?!
「運命と人力」、「自己の革新」、「四季と一身と」、「疾病の説」、「静光動光」、「進潮退潮」など、明治の文豪から学べることって、結構、多くありそうです。僕が、特に気に入ったのは、「幸福三説」という文章。福が有ることもいいけど、福を惜しむ(大切にすること)、福を(まわりの人間と)分かち合う、そして福を植えていく(増やしていくこと)がたいせつだよ、という話(「福」を、「お金」と置き換えてみてもいいです)。これって、ビジネスにもあてはまるじゃないですか!
明治の文豪も、案外、おもしろいです。

出版が楽しみな「日本語が亡びるとき」(水村美苗著)

きのうに続いて今日も荒川沿いで40キロサイクリング。これからすこしずつ距離を延ばしていって、今月中には100キロ以上、走ってみようと思っています。

ところで、先日ご紹介した、水村美苗さんの長編評論「日本語が亡びるときー英語の世紀の中で」(新潮9月号掲載)。雑誌に掲載されているのは、全七章のうちの冒頭三章分。非常におもしろい評論で、今年秋の出版が楽しみです。「普遍語」となった英語と、「現地語」でしかありえない日本語を含むその他の言語。三章読んだだけでも、現代のラテン語として普遍的な力を持つようになった英語に関するさまざまな議論がうまくまとめられていると同時に、これからの世界の動きを考えていく上でのヒントが含まれている評論となっています。日本の政治家こそ、読む必要があるのではないかと思います。→水村美苗HP
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「日本語が亡びるときー英語の世紀の中で」(水村美苗著)

『新潮』9月号に掲載されている280枚の長編評論。水村美苗さんの著書、「続・明暗」、「From Left to Right」、そして「本格小説」は、すべて拝読しています。ずっと関心を持ってきた作家のおひとりです。
明日は、20年ぶりに訪問する岩手県。新幹線の中で読むのを楽しみにしています。

「いしぶみ」(文:小山薫堂、絵:黒田征太郎)

Library by Odyssey でお世話になった小山薫堂さんが、またまた素敵な絵本を出されました。映画「おくりびと」(脚本が小山さん)から生まれたそうです。ほのぼのとする内容の絵本です。小山さん、ありがとうございました。(もうひとつの素敵な絵本は、「まってる」)

大学生協おすすめの海外文学

  仕事で大学キャンパスを訪問することがあります。生協の売店に立ち寄るのが好き。どんな本がおいてあるのか、その生協オリジナルの商品をチェックしたりするのもおもしろい。で、この前、京都の京都橘大学に訪問した際に生協で見つけたチラシで、「大学生のための100人100冊ー海外文学編」(製作:大学生協文系委員会/東京事業連合)というのがあったので、もらってきました。必読の23人と、おすすめの77人にわかれていて、必読作品は以下のようになっています。
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1 ダンテ(神曲)
2 ボッカッチョ(デカメロン)
3 ラブレー(ガルガンチュア)
4 セルバンテス(ドンキホーテ)
5 シェークスピア(マクベス)
6 ゲーテ(ファウスト)
7 バルザック(ゴリオ爺さん)
8 ポー(黒猫)
9 ドストエフスキー(カラマーゾフ)
10 トルストイ(アンナカレーニナ)
11 ランボー(ランボウ詩集)
12 プルースト(失われた時を求めて)
13 トーマスマン(魔の山)
14 ジョイス(ユリシーズ)
15 カフカ(城)
16 フィッツジェラルド(グレートギャッツビー)
17 フォークナー(八月の光)
18 ヘミングウェー(老人と海)
19 ナボコフ(ロリータ)
20 ボルヘス(伝奇集)
21 サンテグジュペリ(星の王子さま)
22 カミュ(ペスト)
23 サリンジャー(ナインストーリーズ)

 僕が大学生だった頃にも、こんなリストが出回っていたように思うし(特に、岩波文庫を中心として)、これらの本は20年、30年前にも、必読リストにあがっていたと思います。でもこれらの本を読んだ方がいいのは、大学生でなく、われわれ大人たちじゃないかな?今でこそ言えるけど、僕なんて凡人だから、学生の頃はこれらの本の中身の10分の1くらいしか、理解できなかったと思う。恋愛や人間関係、食っていくことのたいへんさを経験して、ようやく、古典の良さがわかり始めてきたと思う。
 今時の大学生の話を聞いていると、これからの日本ってヤバいなと思うのですが、彼らは実は親の世代の鏡でしょう。高齢化社会になって、古典の時代以上に生きられる時間が長くなっているわけですが、学生たちに読めという前に、まず、大人であるわれわれが古典をしっかり読んだ方がいいのでは?と思っています。
 

中国人作家に芥川賞

 中国人作家のヤン・イーさんに芥川賞決定の記事。この方が書かれた「ワンちゃん」は以前芥川賞候補になっていたと記憶していますが、とてもおもしろい小説でした。うちの会社にインターンとして中国から来て、一度北京に返った後、今は名古屋で勉強しているチェンチェンに送ってあげたら、「おもしろくておもしろくて徹夜して読んだ」と言っていました。今回、芥川賞を受賞した作品も読んでみたいです。

『ジェネラルパーパス・テクノロジーー日本の停滞を打破する究極手段』(野口悠紀雄、遠藤諭共著)

 僕が大学生の頃、マクロ経済学の入門書が多いに売れたNという先生がいます。いまでもしばしばテレビや新聞に出る方で、経済学者からいつの間にか経営学者になっています。この先生のお話を小さなサークルでお聞きする機会があったのですが、「私はアメリカに洗脳されていた。日本にはアメリカのような市場主義経済は合わないし、アメリカや中国のような、二枚舌の政治はできない。日本のリーダーシップは歴史的にみても、徳治主義でないといけない。」というような話をきかされ、あきれました。(洗脳されていたうんぬんは、サービス精神から、おもしろおかしく発言されているのかと思いますが)日本国内の政治や財界には、二枚舌のおえらさんたちはいないのだろうか?!単に、役者の違いで、アメリカや中国の政治家相手に大芝居をうつことができないだけじゃないのか?「先祖帰り」してしまったこの有名タレント教授の話には、あきれてしまいました。
 それに引き換え、野口先生は徹底的にシリコンバレーのビジネスモデル、経営手法や哲学を日本の大企業や政府に対比させながら、日本の経営層(公的部門の経営層も含め)が既得権を守りながら、新しい環境に対応しようとしないという批判を続けています。日本社会が、IT革命がもたらした新しい情報、通信システムに適合しようとしていないことを、繰り返し述べています。このあたりのことは、ここ数年の野口先生のすべての著書に共通しているテーマです。
 野口先生は僕が大学在学中に一橋で教鞭をとっていました。先にあげたN先生も、他大学を経由して、一橋で教えていらっしゃいました。野口先生も、学者からいつの間にか、ベストセラー作家になられていますが、先祖がえりのN先生と違って、少なくとも現状に対する批判精神を維持されているところは評価しています。

東京国際ブックフェア2008

 東京国際ブックフェア2008がビックサイトで開催中。オデッセイコミュニケーションズでも、ユーキャン、日経BPソフトプレス、そして翔泳社と共同で、ブースを出展しています。
 このイベント、出展している出版社が、通常価格の2割引で本を売ってくれるので、週末は個人客も多く集まります。本日午前中あった特別講演「どうする!出版産業のビジネスモデル」を聞いたあと、展示コーナーへ。みすず書房、勁草書房などのちょっと高額な本を買ったので、2割引が助かりました。

『考える人』(新潮社刊)

 小社で提供していたラジオ番組、Library by Odysseyで、パーソナリティをお願いしていたノンフィクション作家、最相葉月さん。最新の季刊誌『考える人』(伝記、評伝、日記特集)にインタビュー記事がでていたので、久しぶりにこの雑誌を買いました。鶴見俊輔さんの自伝『期待と回想』に関連して、「人がちゃんと生きてきたということが伝わってくることほど、人生に役立つ教えはない」。僕が自伝を読むのが好きな理由でもあります。

『大いなる看取りー山谷のホスピスで生きる人々』(中村智志著、新潮社刊)

 以前紹介した山谷のホスピス「きぼうのいえ」そこで晩年を過ごしたひとたちの人生の断面を、週刊朝日の記者が本にしたもの。死を遠ざけ、死を見ないふりをすることが多いわれわれですが、死のことを考えてはじめて、よく生きることもできるのではないかと思います。僕の場合は、仕事でお世話になった北岡さん(TOEICの創案者)の死から教えられることが多かったです。残された北岡さんの奥さんの由美子さんは宝塚出身で、あるホスピスで時々歌っていらっしゃいます。1年に一度はお会いしますが、これからも歌い続けていただきたいと思っています。
 この本の中で、紹介されている、以下のような素敵な言葉があります。
Bach gave us God's word. (バッハは私たちに神の言葉を与えた)
Mozart gave us God's laughter. (モーツアルトは私たちに神の笑いを与えた)
Beethoven gave us God's fire (ベートーベンは私たちに神の熱情を与えた)
God gave us music, so that we can pray without words. (言葉がなくても祈れるように、神は私たちに音楽を与えてくださった)
 音楽のユニークさを表している言葉かと思います。