「読むのが先か、聴くのが先か」

かつて角川映画が元気だったころ、「読むのが先か、観るのが先か」というようなCMコピーがあったように記憶しています。角川書店から出版される小説が映画化され、本と映画の両面でビジネスにしようとする、とてもおいしいやり方でした。

先日聴いた「ノルウェイの森」に次いで、同じ村上春樹の「職業としての小説家」を聴きました。「聴くのが先」!

村上春樹は自分自身を長編小説を「主戦場」とする小説家と言っていて、エッセイや短編小説は主戦場ではないという位置づけのようですから、ぼくはかれの忠実なファンではないように思いますが、村上春樹のエッセイはとても好きです。
かれの考え方や意見にはとても共感をもっています。本物の村上春樹はどのような人なのかわかりませんが、とても高い職業意識を持つ、職人のような方だという印象です。

この次のオーディオブックも、村上作品。こんどは小説に挑戦します。

村上春樹を「聴く」

久しぶりに、20年あるいは30年ぶりに「ノルウェーの森」に挑戦。ただし今回は本を前にして読むのではなく、オーディオブックで作品を聴きました。映画が出来上がったときも見た作品。その頃大好きだった菊池凛子が主演女優の一人だったから。
小説はできるだけオーディオブックで「聴く」ようにしたい。できるだけ目を酷使するのはやめたいから。スマホを使いすぎてお目目も疲れ気味。
いまは、村上春樹の「職業としての小説家」を聴いている。村上春樹の身心ともにストイックな考え方には共感するところが大だ。ただしぼくは彼ほどストイックな生き方、仕事の仕方はできていないのが課題だが。

『資本主義の次に来る世界』(ジェイソン・ヒッケル著)

原題はLESS IS MORE.
企業経営や企業の評価において、あるいは個人のキャリアにおいても「成長」は強く求められるものになっている。成長はMUSTであり、成長に異議を申し立てることは許されないような雰囲気さえある。
上場している会社の経営者は、株主たちからは常に成長を求められていて、ご苦労さまなことだと同情も申し上げる。
個人の転職を進める会社などは、成長できる職場、会社に転職すべきだ、この会社だとおあたは成長できる、なんてことも言ったりしている。

自分が年をとったからだろうか、あなたたちのいう「成長」なんて、しなくていいのじゃないの、と思うことがある。あなたたちのいう成長って、おカネをもっと稼ぐということ以外になにが含まれているのか?なんて皮肉を言いたくなることもある。

日本は人口減少が制約になって、これから経済は縮小していくだろうけど、それはそれでいいのではないかと思っている。これまでよりも少ない労働人口で、どうやって経済を維持していくのか。労働人口は減る(less)けども、創意や工夫はもっと生まれてくる(more)だろうし、これまでよりも高い賃金(more)を企業は払わないといけなくなるだろう。それは働く人たちにとってはいいことだと思う。

この本の中で著者はこんなことを訴えている。

「結局のところ、わたしたちが、「経済」と呼ぶものは、人間どうしの、そして他の生物界との、物質的な関係である。その関係をどのようなものにしたいか、と自問しなければならない。支配と搾取の関係にしたいだろうか、それとも、互恵と思いやりに満ちたものにしたいだろうか?」

政治家も、経営者も、われわれ庶民も、みんなこの問いを考えてみた方がいい。

映画『ある男』

平野啓一郎原作の小説の映画化。いまちょうどオーディオブックでこの小説を聴いていてちょうど半分くらいのところ。日本アカデミー賞の主要部門を総なめしたことで「凱旋上映」の最中ということだったので(いつまで上映が続くのかわからないということもあり)この時点で映画を観ることにした。

安藤サクラの演技が良かった。力が入ってなくて、リアル感があった。主演の妻夫木聡の弁護士役はどうかな?(あんな美男子の弁護士は珍しいだろうな!)真木よう子、清野菜名がきれい!

平野作品を読むのは初めて。ミステリーあるストーリー展開でエンターテインメント性も高い。Twitterで政治的な発言が多い平野さん。死刑制度や在日へのヘイトスピーチなどにもしばしば言及されているように思うが、この小説の中でも現代日本社会の課題を取り上げている。
人は過去の桎梏から解放されて新しい人生を生きられるのか?家族とは?親子や夫婦のつながりは?
文庫本とオーディオブックの両方をそろえてこの小説にとりかかっている。原作の最後まで行くのも楽しみ。

『林住期』(五木寛之著)

ある読書家のためのSNSで、「時々、誰かに知恵を授かりたないと思った時に思い出すのは五木寛之さんと美輪明宏さん」だと、書かれている人がいた。ぼくも美輪さんのお話が好きだ。NHKのEテレで、愛の相談室という名前の番組を持っていらっしゃる。番組一覧を見ていて気がつくと録画しておくことがある。
五木さんは高校生から大学生にかけてエッセイや『青春の門』を読んだ。あの頃が一番五木さんの本に関心を持っていた頃かと思う。
先日、NHK出版から出ている『健やかな体の作り方』という本を読んで、90歳になろうとする五木さんのセンスの良さにあらためて感心した。半世紀をこえる時間と時代の流れの中で、いまなお活躍される力(まさにresilience=レジリエンス)と時代を読むセンスの良さはすごい。
『林住期』は50から75歳までの人生の第三ステージを指すという。ぼくは20年ごとで自分の人生を考えていたから、60前後から最終ステージに入ったのかなと漠然と考えているけど、林住期ととらえる方がいいかな。
あと何年生きることができるのかわからないけど、この本の中にあるように、自分の人生で一番いいステージにできればいいなと思う。おカネのために働くことや人との比較のなかで一喜一憂したりすることなく、心の欲するところに自分のペースで歩いていきたい。日本や世界の行く末をぜひ見てみたいから100歳まででも生きられるとうれしい。でもそれは神のみぞしるだろうな。

一日一冊

知り合いの方がFacebookに「本が好きで、一日一冊以上読んでいます」と書かれていた。すごい!いったい、どんな本をお読みなんだろう。一冊当たり何時間かけているのか?速読をマスターされているのか?
本を読むのが遅くて困っている僕からすると、うらやましい。もう一生かかっても読めないくらい本を買ってしまっていてどうしようと思っている。個人の作家の全集や作品集、大学の先生の全集を始めとして、まったく整理もできていない。
「一日一冊」はまねできないけど、ちょっとペースを上げていかないと、たいへんなことになりそう。

はみ出し者

『子どもができて考えた、ワクチンと命のこと』という本を読んでいます。著者はアメリカ人女性でエッセイストのユーラ・ビス。
彼女の文章を読むのは初めて。Financial Timesの記事で知った作家で、おもしろそうだったので調べたら、この本が町の図書館にありました。
この本は2018年に翻訳が出版されています。ワクチンや免疫のことを取り上げていますが、ちょっとした哲学書になっています。
コロナ禍のいま、とてもタイムリーな内容の本でもあります。

ご自身のアイデンティティに関する想いを書かれている箇所があり、以下のような記述がとても記憶に残りました。

「自分の属するところが見つからないことではなく、どこにも属していないことを説明する方法が見つからない(ことだ)。そのため、私はアリス・ウォーカーの詩にある『だれのお気に入りでもなく/はみ出し者であれ』を心に留めておくようにしてきた。私的エッセイは昔もいまも、はみ出し者たちが書いていることが多い。その伝統に照らせば、私は詩人でもメディアでもなく、エッセイストか市民思索家だといえるだろう」

ぼくも、はみ出し者のひとり。

『パトリックと本を読む:絶望から立ち上がるための読書会』(ミッシェル・クオ著)

kuroinu.meをほったらかしにしたまま何か月か経ってしまいました。今年も続けていきます。
昨年11月にはクウ太郎が17歳の誕生日を迎え、この1年の間ですっかり彼の老化が進みました。犬も人間も同じ。足腰が弱り、認知症が進む。
まだガンの症状がみられないことは良しとしています。
家の中はいわゆるフローリングの床になっているため、後ろ足がすべりしっかりと立つことも難しくなりました。すこし歩かせることさえも難儀になることが愛犬介護の現実。
愛犬の介護はlabor of love。
そういえば、labor of loveという言葉そのものだなと思ったのが、『パトリックと本を読む』の著者、ミッシェル・クオがパトリックと過ごした時間。
学部、ロースクール、ともにハーバードに行った台湾系アメリカ人女性が、Teach for Americaの教師として赴任したアメリカ南部(Deep South!)で知り合った黒人少年のために続けた「読書会」。
人を間違って殺めたパトリックが刑務所に入っている間、半年ほどにわたって訪問、読書会を継続していく著者がおこなったことはまさにlabor of love だと思いました。
この本を読んで、あらためてアメリカ社会の中での人種差別の課題を実感しました。黒人として生きることもそうですが、アジア系であることも決して楽ではないのだな、と。
著者のTEDでのスピーチほか、この本のプロモーション動画などがいくつかYouTubeに出ています。
ハーバードロースクールをでても、カネのために大手弁護士事務所に働くキャリアを選択しない人がいることにちょっと「救われる」気がしました。
著者はとても美しい心を持った人。一茶や芭蕉など、俳句が引用されていることも、この本を魅力的にしています。

日経新聞・経済教室に法政大学大学院教授の豊田裕貴先生

オデッセイコミュニケーションズで出版している『Excelで学ぶ実践ビジネスデータ分析』をご執筆いただいている豊田裕貴先生が、10月2日付の日経新聞・経済教室に、今日本で言われている効率を上げることのみを念頭においたDXへの懸念をあげられ、価値創造のためのDXを提唱されています。
日経新聞の豊田先生の記事
豊田先生のご著書

『野生のうたが聞こえる』(アルド・レオポルド著)

久しぶりにいい本に巡り合ったなと感じています。本の裏表紙にある紹介文から一部を紹介すると、こんな本です。

「あるがままの自然への慈愛と共感、失われゆく野生への哀惜の情をみずみずしい感性でつづり、自然が自然のままで存在しつづける権利や、人間と生態系との調和を訴える先駆的思想を説く。(中略)ソローの著作とならび称される一方で、自然との共生の思想により環境保全運動を支える役割をになってきた」。

わが国の環境大臣がこの本を「セクシー」と思うかどうかはわかりません。彼が勉強家なのか、読書家なのかも存じ上げません。
ただ、環境大臣には、こういう本もぜひ読んでいただきたいと思いました。
特に、この本の一番最後に置かれた「土地倫理」という文庫本で36ページほどの論文。倫理は個人、人同士の間を越えて、土地(環境)にまで及ぶべきであるという思想。

著者は1887年に米アイオワ州生まれ(ぼくが16から17歳までの1年間生活した土地!)、森林官からキャリアを始め、最終的にはウィスコンシン大学の教員。
動物たちの挿絵もはいっているとても素敵な講談社学術文庫の一冊です。