『大いなる看取りー山谷のホスピスで生きる人々』(中村智志著、新潮社刊)

 以前紹介した山谷のホスピス「きぼうのいえ」そこで晩年を過ごしたひとたちの人生の断面を、週刊朝日の記者が本にしたもの。死を遠ざけ、死を見ないふりをすることが多いわれわれですが、死のことを考えてはじめて、よく生きることもできるのではないかと思います。僕の場合は、仕事でお世話になった北岡さん(TOEICの創案者)の死から教えられることが多かったです。残された北岡さんの奥さんの由美子さんは宝塚出身で、あるホスピスで時々歌っていらっしゃいます。1年に一度はお会いしますが、これからも歌い続けていただきたいと思っています。
 この本の中で、紹介されている、以下のような素敵な言葉があります。
Bach gave us God's word. (バッハは私たちに神の言葉を与えた)
Mozart gave us God's laughter. (モーツアルトは私たちに神の笑いを与えた)
Beethoven gave us God's fire (ベートーベンは私たちに神の熱情を与えた)
God gave us music, so that we can pray without words. (言葉がなくても祈れるように、神は私たちに音楽を与えてくださった)
 音楽のユニークさを表している言葉かと思います。

『田舎暮らしに殺されない法』(丸山健二著、朝日新聞出版刊)

 ちょっとドキッとするタイトルですが、中身を読むともっとドキッとします。定年退職後、田舎暮らしに淡い夢と希望を持っている人たちに、冷水どころか、ハンマーで殴り掛かるくらいショックを与えると思います。厳しいリアリズムに基づく忠告の連続です。丸山さんはストイックな生き方をされてきた作家なので、あまっちょろい団塊世代には我慢もならないのでしょうか。(団塊世代だけでなく、ペットのような人間すべてに我慢がならないのでしょうが)

 これから田舎暮らしを始めようとする人たちだけではないと思います。ちょっと真剣に生きることを模索しているひとすべてへのメッセージかと思います。参考までに、各文章のタイトルだけあげておきます。
- その前に、「自立」しているかを問え
- 確固たる「目的」を持て
- 「自然が美しい」とは「生活環境が厳しい」と同義である
- 年齢と体力を正確に把握せよ
- 「田舎暮らし」を考えるなら、まず酒と煙草をやめよ
- 「孤独」と闘う決意を持て
- 「妄想」が消えてから「現実」は始まる
- 田舎は「犯罪」の巣窟である(これはショッキングでしたが、ほかの方の話を聞いていても確かなようです)
- 田舎に「プライバシー」は存在しない(これは僕の育った田舎もそうですね)
- 「付き合わずに嫌われる」ほうが底が浅く、「付き合ってから嫌われる」ほうが数倍も根が深い
- 「第二の人生」について冷静に考えよ
- 「老後の現実」を直視せよ
- あなたを本当に救えるのは、あなた自身である (以上)
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『ルイス・カーンとはだれか』(香山壽夫著、王国社刊)

先日(6月10日)ご紹介した映画の主人公で建築家であるルイス・カーンのもとで勉強した東大名誉教授によるルイス・カーン論。引用されているカーンの言葉にははっとし、感動するものが多々あります。
 「自然は、夕焼けのいかに美しきかを知らぬ。」(Nature does not know how beautiful the sunset is.) 
 「あったものは、常にあったものである。今あるものも、常にあったものである。いつかあるであろうものも、常にあったものである。」(What was has always been. What is has always been. What will be has always been.)

 
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『ビジネスに「戦略」なんていらない」(平川克美著、洋泉社刊)

 実際に会社を経営されてきた「実務家」の書かれた本。論を深めるという点では、不満に思う読者も多いかもしれませんが、机上の空論とは違い、実体験から生まれた考えが書かれています。僕も共感する点が多い本です。

 友人に内田樹(神戸女学院大学教授、「私家版・ユダヤ文化論」で小林秀雄賞受賞)がいて、彼との対談もこの本には含まれています。内容は、大きな視点からビジネスをとらえ、人間の営みとしてのビジネスのおもしろさを説いています。ビジネスの始まりには、「交換」=コミュニケーションがあること、モノであれ言葉であれ、交換過程のはじめにあるのが「与える」ということ、それに対する返礼、反対給付が続いていくことがコミュニケーションの基本であること。さらに、ビジネスにおいて交換されるものはモノやサービスとお金であり、さらに、技術や誠意といったものが満足や信用といったものと交換されていること。その二重の交換が、ビジネスであることを熱心に説いています。
 大学生の頃読んだ文化人類学、経済人類学の本を思い出させてくれました。会社の経営者は、顧客や社員などの「ステークホールダー」と、商品やメッセージ(言葉)を通して対話を進めていかないといけないこと、対話そのものが実はビジネスの大きな目的であり、その中にいきがいや、やりがい、あるいは自己実現といったものが見つけられるのではないかと思いながら、本を閉じました。

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『自転車をめぐる冒険』(文:疋田智、絵:ドロンジョーヌ恩田、東京書籍刊)

 来月、丸の内インターネットラジオ「アイディアエクスチェンジにご出演いただくことになっている、TBS報道局勤務で、「自転車ツーキニスト」の疋田智さんの本。絵と「つっこみ」を担当しているのが、女性サイクリストのドロンジョーヌさん。この人の絵がケッコウいけます(ちょっと色っぽいのがいい!)
 文章は、疋田さんが雑誌に書かれたエッセイを中心に集めたものです。自転車に乗っているとポジティブな考えや気持ちが浮かんでくる、自転車が「独立マインド」を育ててくれるなど、大賛成というか、諸手を上げて賛同したくなることが、たくさん書かれています。
 自転車ファンだけでなく、自転車に乗ると太ももが大きくなってしまうから「イヤ!」と、思っているすべての人におすすめ!(←これって、大きな誤解ですよ)

 
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『「心の傷」は言ったもん勝ち』(中嶋聡著、新潮新書)

 一昔前(と言っても、20年、30年前ですが)の日本だと、問題にならなかったようなことが、この頃は大事になります。なかには時代が変わってよかったと思うこともありますが、どうも、「へー、その程度のことが、ハラスメントだとかになるの?!」ということもあります。ハラスメントなんて言葉が一般的に使われるようになって、日本が窮屈になってきているという気もします。(85センチ以上のお腹周りは「メタボ」だとなると、急に「病人」が増える!)

 で、この本の著者ですが、精神科医です。「心に傷を受けた」と言って、出社拒否する無責任社会人に対して、うんざりされているようです。これまで何度も診断書や意見書を書いてくれと頼まれて、つらい立場に立ったことがあるようです。過剰な被害者意識の患者たちには、もううんざりされているのではないかと思います。

 以前書いたことがありますが、ある日本を代表するネット企業のひとつで、企業内の産業医が、社員の愚痴や不平不満をさんざん聞かされた結果、自分自身が精神的な病気になって休むようになったという話を聞きました。この本の著者も、このような本を書かないと、ご自身の心のバランスが取れないのではないかと想像します。
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 一部、「ちょっと言いすぎじゃないの?!」というところがありますが、大筋では同意!「精神力を鍛える七つのポイント」(第7章)の最初に挙げられている、「1.何事も人のせいにしない。」これに尽きるかと思います。

 この方、東大医学部を卒業され、エリート医者のように見えつつも、実はご自身も過去において挫折を経験されているようです。大学卒業後アメリカに渡ったとき、「成績が著しく悪い」ということで、半年でクビになったそうです。日本に帰るため、サンフランシスコ空港から飛行機に乗るとき、またアメリカに来ようと思ったが、そのチャンスは2度と来なかったと書かれています。若い人へのメッセージとして、「与えられた短いチャンスの間に、全力を尽くしてください。」とあります。

 お話の内容を、筆記者がまとめたものかもしれません。文章は時に感情的でもあり、荒っぽい議論も見られるのですが、さきほど書いたとおり、大筋では賛成です。

 著者は僕よりも4年先輩のようですから、たぶん、同じ世代です。ちょっと、「巨人の星」っぽい価値観の影響を、お互い受けているかな?!

『トヨタ語録』(石田退三著)

 「トヨタ中興の祖」とされる石田退三(1979年没)の発言を集めた本。このかたは、松下幸之助からも敬愛されていたということです。会社の経営者でなかったとしても、すべてのビジネスマン、ビジネスウーマンにためになると思います。ビジネスの話だけでなく、生きていくことのヒントもここにはあります。英語のタイトルは、The Philosophy of Toyota。
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文春新書『ポスト消費者社会のゆくえ』(辻井喬/上野千鶴子)

 毎週土曜日の読売新聞朝刊に連載されている、辻井喬/堤清二による「回顧録」とあわせてこの本を読むと、経営者としての堤清二さん、作家としての辻井喬さんのことをよりおもしろく知ることができます。ちょうど、今朝の読売新聞朝刊には、三島由紀夫が市ヶ谷で自殺したときのことが紹介されています。ほぼ同じ話が、この本の中にもでてきます。三島は辻井さんの2歳年上のようですが、親しくされていたことを知りませんでした。

 大学時代の友人の一人は、堤清二が作り出したセゾングループの文化事業への関心から、西武百貨店に就職しました。1983年、セゾングループが躍進していた頃です。作家(辻井喬)でもある経営者(堤清二)は、バブルの崩壊とともに消えていきましたが、挑戦した事業はおもしろかったし、その視線は高いものを見ていたのではないかと思います。今では、作家・辻井喬が残っています。
 上野千鶴子さんが、この本の中で、非常に鋭い質問者、コメンテーターの役割を果たしています。新書でも900円ですが、320ページほどの充実した対談で、非常におすすめです。

YouTubeに、セゾングループ(堤清二)に関するおもしろいプレゼンテーションが出ています。


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ポール・ニザン著『アデン・アラビア』(晶文社刊)

 大学生の頃、読んだ本です。久しぶりに冒頭の、あまりにも有名な一節を読み返してみました。最初の一文が、紹介されることは多いようです。(「僕は20歳だった。それが人の一生でいちばん美しい年齢だなどとだれにも言わせまい。」)

 その後に続く文はそれほど紹介されませんが、以下のように続きます。「一歩足を踏みはずせば、いっさいが若者をだめにしてしまうのだ。恋愛も思想も家族を失うことも、大人たちの仲間に入ることも。世の中でおのれがどんな役割を果たしているのか知るのは辛いことだ。」(篠田浩一郎訳)

 人それぞれ感じるところは違うかもしれませんが、ポール・ニザンの言葉は、今の僕らにもストレートに響いてきます。恋愛や家族を失うことの痛手は分かったとしても、失うことを恐れるほど、思想にコミットすることは、今の時代、大半の人からすれば理解不可能ということでしょうが、ポール・ニザンの友人のひとりはサルトルでした。

 この本は、日本では1966年に発行されています。→aoten store

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野村克也著『野村ノート』(小学館刊)

 野球の野村監督による、一流のリーダー、一流の人間になるためのアドバイス。そして、裏話を交えながらの、一流の野球選手とはなんぞやというお話。野村さんは勉強家だなと感心します。もう日本の野球にはまったく関心がなくなった僕ですが、この本に関して言えば、われわれビジネスマンにもジーンと来る話が満載です。

 第一章に以下のような言葉が紹介されています。(この言葉はよく紹介されますが、久しぶりに出会いました。)

心が変われば態度が変わる。態度が変われば行動が変わる。行動が変われば習慣が変わる。習慣が変われば人格が変わる。人格が変われば運命が変わる。運命が変われば人生が変わる。

 南海ホークスの選手兼監督だったころ、僕はまだ小学生だったのですが、ホークスの春キャンプが、高知の大方であったことを覚えています。野村さんにもサインをもらったような記憶があります。この人の奥さんだけは、理解できないのですが、悪妻のおかげもあって、野村さんは、大活躍なのでしょうか?!

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