『建築家・安藤忠雄』(安藤忠雄著、新潮社刊)

ご存知日本を代表する建築家のお話。これまで安藤忠雄の本を何冊か読んでいる読者(ボクも含めて)には、特に新しいお話はそれほどありませんが、それでもおもしろい。昨日は腰痛でずっと寝込んでいたので、ベッドの上で、一気に読みました。
 「人生に”光”を求めるのなら、まず目の前の苦しい現実という”影”をしっかり見据え、それを乗り越えるべく、勇気をもって進んでいくことだ。情報化が進み、高度に管理された現代の社会状況の中で、人々は、『絶えず光の当たる場所にいなければならない』という強迫観念に縛られているように見える。」(中略)何を人生の幸福と考えるか、考えは人それぞれでいいだろう。私は、人間にとって本当の幸せは、光の下にいることではないと思う。その光を遠く見据えて、それに向かって懸命に走っている、無我夢中の時間の中にっこそ、人生の充実があると思う。」
5年くらい前かと思いますが、あるところで、安藤忠雄のプレゼンテーションを聞いたことがあります。それ以来のファンで、ほとんどの本は読んでいますが、まだ安藤忠雄を読んだことのない人たちにもおすすめの一冊です。
 安藤忠雄のポートレートは、アラーキーが、建築作品の写真は松岡満男。たくさんある写真のページも素敵な本です。

『商いの道_経営の原点を考える』(伊藤雅俊著)

 今のような経済環境においてこそ、変わらない価値を持つ本を読み返していきたいです。この本は、イトーヨーカ堂の実質的創業者が、経営、ビジネス、さらには生き方に関する指針を示してくれた本です。10年前に出された本ですが、まったく色あせない内容です。非常にやさしい、分かりやすい言葉で、経営の本質を語られていると思いました。さらに、著者がマクロ経済に関して書かれている考え方は、現在にも完全に当てはまります。具体的には、政府との関係が深い産業に競争力がなく、供給過剰の問題を抱えていること、バランスを欠いた短期的な株価至上主義が健全な会社の成長の妨げになっていること、好不況の波があることは必然で、「森が山火事で焼けると新しいものが生えてくる」こと。
 ダイエーの中内さんと好対照なのが、伊藤さんだったと思います。中内さんが男性的で荒っぽかったのに対して、伊藤さんは女性的で非常に手堅かった。中内さんが、松下幸之助と大げんかをしたのに対して、伊藤さんは松下幸之助を尊敬し、師としていたこと、中内さんが不動産投資にのめり込んでいったのに対して、伊藤さんは非常に慎重だったことも面白いほど正反対のおふたりでした。
 経営という意味では、伊藤さんにはたいへん見習うところがあると思っています。(ただ、ボクは中内さんには、伊藤さんとは違った意味で魅力を感じています。佐野真一さんが書かれた『カリスマ』に対して、中内さんは一時名誉毀損で訴訟をされていたように記憶していますが、ボクはこの本を読んで中内さんのファンになりましたから。)

『寡黙なる巨人』(多田富雄著、集英社刊)

 先日、ご紹介した『露の身ながら』共著者のお一人である免疫学者・多田先生のエッセイ集。アメリカから帰ってくる飛行機の中で、読み終えました。脳梗塞で倒れられてからの、動かない身体と、発することのできない声という、悲劇的な身体、精神状況の中で、自殺の誘惑に耐えながら、無様な姿をさらしてでもリハビリとともに生きていき、自分の中での新しい「巨人」の誕生と成長を、喜びとともに、綴っています。今年読んだ本の中で一番心に残った本の一冊。

『露の身ながらーいのちへの対話』(多田富雄、柳澤桂子著)

 多田先生は世界的な免疫学者として活躍されていたのに、2001年、突然脳梗塞におそわれ、右半身不随と声を失います。もう一人の著者である柳澤さんは遺伝学の研究者として活躍中、31才にして原因不明の難病に倒れ、この40年近く、病と闘ってきました。そんなお二人による、まさに、命をかけた闘いの中で行われた往復書簡集。心からオススメします。

 追記 この本を読むと、身障者にとって、パソコンがいかに重要なコミュニケーションツールとなりうるのかということを、改めて、認識することができます。

Studs Terkel の死

 昨日、シカゴのラジオDJで著作家でもあったスターズ・ターケルが死んだことを、在日米軍向けのラジオ放送で知りました。96歳。ボクが20歳代によく読んだアメリカ作家の一人です。『死について』、『仕事』、『アメリカン・ドリーム』、『インタビューという仕事』、『よい戦争』など、翻訳された本は、かなり読みましたし、英語の本も何冊か読みました。
 彼は、ボクが思うアメリカの素晴らしい価値観を、ずっと、表現し続けた人でした。人種差別やマッカーシズムなどの赤狩りには、大反対だったので、生きてオバマが初の黒人大統領となるところを見て欲しかったようにも思います。
 でも、4日の大統領選挙で、本当に、オバマが大統領に選ばれるのかどうか。アメリカに黒人の大統領が生まれたら、それは本当に歴史的なことだと思います。
 YouTubeのスタッズ・ターケルは、2003年に、カリフォルニア州立大学バークレー校での講演からです。すでに90歳を越えた年齢で、これだけの滑舌なのには、驚きます。


『恐慌前夜』(副島隆彦著)

 先日、この本を買ったと書いてしまったので、お断りしておきます。読後の感想ですが、いい本とは思いませんでした。決して、オススメしません。自分自身を超能力者だと言う著作家は、マスコミにしばしばでていた女性占い師同様、凡人のボクには、理解できません。
 ひとつだけ、この著者が何度も言っていることとはまったく異なる展開となっていることを指摘しておきます。今年、大勝負にでて大きく儲けたファンドがあります。 Bill Gross (ビル・グロス)というファンドマネージャーが共同経営者であるPimcoというファンドですが、『恐慌前夜』の著者が繰り返し紙切れになると言い切っている、ファニーメイやフレディーマックの債券を、損切りする他の投資家たちから大きなディスカウントで買い集めます。9月、米国政府がこれら住宅金融公社の債券を保証すると発表し、ビル・グロスの賭けは大勝利に終わりました。(→
FT記事)この本が出版された直後くらいの展開ではないかと思います。
 今年の、FT/ゴールドマン主催の「ビジネスブックオブジイヤー」ですが、受賞作品は、"When Markets Collide" 。現在進行中の信用不安をたどり、どのようにこの危機を乗り越えればいいかについて書かれています。著者は、偶然ですが、ビル・グロスの会社のパートナーであるMohamed El-Erain。この本の翻訳が待たれます。(→
FT記事

対馬に行ってみたい

 今週産經新聞が一面で、「対馬が危ない」という特集記事を連載していました。韓国資本が、対馬の土地を買い集めていて、防衛の観点からもかなり危ない状況ができつつあるという話です。韓国の観光客の方が、日本人観光客よりも多くなっているそうですし、韓国人ツアーガイドの中には、対馬は韓国に属すべき領土だと、韓国人観光客に話しているものもいるということです。
 この記事を読む前から、一度、対馬には行ってみたいと思っていました。残念ながら、対馬には、弊社のお取引先はないのではないかと思いますが、ぜひ、一度、行ってみたい場所の一つです。(MOSバーガーのお店はあるようですが!)
 そんなこともあって、以下の本をアマゾンで注文しました。『誰も国境を知らない_揺れ動いた「日本のかたち」をたどる旅』(西牟田靖著、情報センター出版局刊)。書評などでも評判がたいへんいい本です。

『イスラムの世界観ー「移動文化」を考える』(片倉もとこ著、岩波現代文庫)

 本の帯には、以下の言葉があります。「人生は、旅ー新しい遊牧民の時代へ!」。小社の社名の一部の「オデッセイ」ですが、この言葉にも、旅、特に、長い旅という意味があります。(もともとは、ギリシアのホメロスの叙事詩の主人公の名前です)この本を読んでいると、イスラムの人たちへの興味がどんどんどわいてきます。ボクらは移動すること、旅にでることで、たくさんのことを学んでいくんだと、ボク自身の経験から、実感しています。これまで、時には一人で、時には友達に導かれて、そして時にはビジネスの理由で、いろいろなところに行きました。これからも、そうありたいな。(海外出張に向かう飛行機の中でこの本を読みました)

『日本史の誕生』(岡田英弘著、ちくま文庫)

 学校の勉強でつまらなかったのは、歴史、物理、法律(法学部だったけど)。物理をのぞくと、今、歴史と法律は、本を読んでいてもおもしろいと思います。これは、社会に出てからの経験のおかげで、歴史や法律を、自分のこととして見ることができるようになったから。(物理だけはまだダメ)
 この本の著者はいろいろと話題になっているようですが、ものの見方にはおもしろいと思うところがたくさんありますし、今の日本を見るにもヒントになるような記述がたくさんあります。たとえば、
1 7世紀における日本の国家としての成立は、中国、朝鮮半島における政治変化に対する、倭人たちの自己防衛行為であり、「鎖国」は日本建国以来の国是であった。(→今においても、「グローバライゼーション」に関する多くのコメントを読んでいると、同じような心理状態にある人たちが多いと感じます)
2 いずれの文明でも、最初に書かれた歴史の枠組みが、人間の意識を規定してしまう。日本書紀の表現する、日本は中国とは対立する、まったく独自の正統を天からうけついだ国家であるという思想は、永く日本の性格を規定した。(→レベルは違いますが、会社などの組織においても、スタート時における目標やメンバーが非常に大切で、のちのちの組織のゆくえに多大な影響を与える)
3 日本は、先祖代々、記憶はもちろん、記録にさえ残らない、古い昔からの人間関係を、どっさりと重く背負いこんだ人間が構成している国だ。われわれ日本人にとって、歴史は、常に存在していて、目に見えない力でわれわれの考え方、ものの見方、行動を支配している。この感覚は、アメリカの空気の中には存在しない。個人が他者から自由に意思決定できるなどと信じているのは、アメリカ人ぐらいのものだ。(→シリコンバレーは、アメリカだからこそ、ありえるのかもしれない)

 著者は、歴史について、以下のように書いています。「歴史とは、人間が世界を見る見方を、言葉で表現したもので、過去の世界はこうだった、その結果、現在の世界はこうなっているのだという、書く人の主張の表現なのだ。歴史は決して単なる事実の記録ではなく、何かの立場を正当化するために書くものである。」日本の学校の歴史の授業がまったくつまらないのも、何らかの立場の押しつけであるからでしょうか?

岡田宮脇研究室
雑誌「正論」から

『サミング・アップ』(モーム著、岩波文庫)

 この10年、20年くらいの大学入学試験の英語には、どんな文章が出ているのでしょうか。僕が大学入試を受けたのは1979年ですが、参考書は、英文標準問題精講(旺文社)と新々英文解釈研究(研究社)を使いました。そのふたつともに、モームの文章が含まれていて、それもかなり重要な位置をしめていたように記憶しています。かつて、大学入試の英語には、モームは必読の作者の一人でした。
 最近は、「コミュニケーション英語」とかが重要だということになっているので、モームなんて、時代遅れなのかもしれませんが、中身はおもしろいです。かなりおもしろいです。大学入試に使われたから、ダメだなんてことは、まったくありません。(口パクで中身のない「コミュニケーション英語」なんかより、ずっとためになります。)
 本書は、64歳のモームが、自分の人生を振り返って書いたエッセイ集です。皮肉屋さんで有名だったモームですが、単に、人間を率直に観察し、描写しただけのこと。真善美を論じた結論は、ある意味、とても平凡なのですが、でも、普遍的なことは往々にして、シンプルで退屈なこともあるから。
 モームについては、もうひとつ思い出があります。一橋大学の中和寮の一階の部屋に、「『月と6ペンス』を読め。まだ人生のやり直しはできる。」という落書きがあったことを覚えています。(確かに、大学生は、やり直しはできるね。もう50近くになると、できないけどね!)『月と6ペンス』は、モームがゴーギャンをモデルに書いた小説。株の仲買人から絵描きになったゴーギャン。落書きの張本人はなにしているのかなと、その時、思ったことを、まだきのうのことのように覚えています。
 最後に。今月の岩波文庫で、『モーム短編選_上』が、同じ訳者(行方昭夫)の仕事で出ています。