日本のランス・アームストロングは銀行員だった!_『がん六回人生全快』(関原健夫著)

 日本のランス・アームストロングといってもサイクリストではありません。ランスと同じように、がんと闘って、奇跡の復活を遂げたかたです。この本は、かつて日本を代表する銀行だった日本興業銀行の社員の方による、16年間の闘病記です。
 1984年、39歳の時、ニューヨークで最初の大腸がん手術。その後、86年から90年までの間に5回のがん手術、そして96年には心臓バイパス手術の計7回も手術。手術の回数も驚きなのですが、さらにすごいのは、この間、ずっと現役で仕事を続けたということ。もちろん、手術の後には、数週間、あるいは一ヶ月ほどの休みをとられていますが、手術前の入院中にも、スーツを着て出社し、できるだけ日常生活を継続される努力をされています。それも信じられない話です。
 前向きな姿勢、人間関係を大切にされたこと(病気と闘うこと、病気を治すことは、自分一人ではできない!)、周りの人たちを説得し、その気にさせ、動かしていく情熱を持ち続けたこと、つねにスポーツを続けたこと。16年の長きにわたってがんと闘った姿は、もしかして、ランス以上かもしれないです。
 ボクのまわりには、おひとかた、がんと闘い続けた方がいらっしゃいました。1997年の今月亡くなられた、TOEICの創案者北岡靖男さんです。(北岡さんのことは以前も書いたことがあるのですが、今の会社を始めることになったのは、北岡さんのおかげです。)北岡さんも、67歳で亡くなられるまでに、7回前後の手術を経験されたと記憶しています。
 北岡さんにしろ、この関原さんにしろ、信じられない忍耐力を示されたと思います。関原さんについては、2007年のインタビュー記事をネットで拝見しましたが、現在もお元気でいらっしゃることをお祈りしています。

Yonda?Doll

新潮文庫のYonda? Club。大好きです!新しいYonda?Dollをゲットしますよ!

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『日本の優秀企業研究_企業経営の原点6つの条件』(新原浩朗著)

 優秀企業とそうでない企業を分ける一般法則は、所属する業界の差に関わりなく見られ、以下のような6つの共通点が見られる、とする研究結果を書籍にしたもの。
1 分からないことは分けること
2 自分の頭で考えて考えて考え抜くこと
3 客観的に眺め不合理な点を見つけられること
4 危機をもって企業のチャンスに転化すること
5 身の丈に合った成長をはかり、事業リスクを直視すること
6 世のため、人のためという自発性の企業文化を埋め込んでいること

 まとめて言えば、「自分たちが分かる事業を、愚直に、まじめに自分たちの頭で考え抜き、情熱をもって取り組む」こと。

 この本の中には、ボクが尊敬している企業、企業家が紹介されています。任天堂(山内前社長)、信越化学(金川千尋現社長)、ヤマト運輸(故小倉社長)、マブチモーター、ホンダ、トヨタ、シマノなどなど。任天堂の山内さんにとっても、最初の30年は苦労の連続だったこと(トランプや花札事業にかわる新規事業として、タクシー事業、インスタントライスの製造にトライした)が紹介されています。また、マブチモーターの製品標準化の話も、おもしろかったです。
 任天堂やマブチモーターは、Big Giants になっていますが、"Small Giants"たちと同じなにかを、共有していると思います。

伊那食品工業_日本のSmall Giants(スモールジャイアンツ)

 アメリカン・ブック&シネマの新刊本「Small Giants」。おかげさまで、日本経済新聞の書評欄でも取り上げていただきました(1月18日付)。この本の中で紹介されているのは、アメリカの企業ばかりですが、日本に、Small Giantsがないわけではありません。それどころか、たくさんあるはずです。

 で、そのような日本のSmall Giantsのひとつが、この伊那食品工業なのではないかと、ロイターのHPに掲載されていた、雑誌「プレジデント」の記事から思った次第です。しっかりした哲学をお持ちの社長に感心しました。事業の深堀、地元に根付いた経営などが印象的です。

(→伊那食品工業記事

木下敏之著『なぜ、改革は必ず失敗するのか』

 今日は、この本をずっと読んでいました。
 著者の木下さんとは、数年前からお付き合いさせていただいていますが、この本を読んで、あらためて立派な方だなと感心しました。また、おつきあいいただき、たいへん光栄だなとも思います。
 39歳の若さで佐賀市の市長になられ、6年半の市長時代、さまざまの改革に挑戦され、成功と失敗を経験されたそうですが、そのときの経験がこの本の中に、率直に書かれています。政治、特に地方政治は理屈ではなかなか行かないものだとあらためて認識します。
 この本の副題には、「自治体の『経営』を診断する」とあるのですが、木下さんは、これからの政治家、特に自治体の政治家には、経営センス、富を創造していく力が必須だとされています。残念ながら、役人にはその経験も、力もないと。ちなみに、ご自身も、農水省の中央官僚だった方です。(「ビジネスの経験も、儲けなければ潰れるというプレッシャーも経験したことがなく、地域振興に失敗しても自分の給料は下がらない。そんな役所や政府が地域振興を考えても、いまの時代に合う策は出てこないのではないでしょうか」)
 また、地方都市が経済的に自立し構造にならなかった理由に関する木下さんの指摘は、鋭いと思います(「私は、小泉純一郎元首相の構造改革路線により格差が拡大したというよりも、地方側が長期間にわたり公共事業中心の地域振興策に依存してきたことに原因があると考えています。地方側から出てくる提案は、残念ながら税収を都市部から地方に移転させよ、という提案ばかりです。」)
 木下さんは、われわれ市民、国民の側にも、現実を直視し、「不都合な真実」から目をそらしてはいけないとはっきり書かれています。そこがまた木下さんのいいところだなと思います。
 現在は、講演活動、コンサルティングなどをなさっていらっしゃいますが、いつか国政レベルで活躍になられることを心から期待しています。木下さんのような方を生かせないとしたら、日本もダメだなとも思います。
 われわれ選挙民こそ、この本を読んだ方がいいというのが、ボクの意見です。
木下さんには、昨年、ボクのポッドキャスティングにもご出演いただきました。お聞きいただければ、うれしいです。
(→
アイデアエクスチェンジ

日経新聞の書評で『 Small Giants』が取り上げられました。

まったく予想していなかったのですが、昨日の日経新聞の書評欄(18ページの中ほど右)で、アメリカン・ブック&シネマの書籍『Small Giants』が紹介されました。たいへん光栄です!ありがとうございます。

『奇跡のリンゴ』のDVD

 先日ご紹介した書籍『奇跡のリンゴ』のDVDを見ました。NHK番組『プロフェッショナル』からです。
絶対に無理だと言われてきたリンゴの無農薬に成功したお話ですが、主人公の木村さんの話でヒントになったこと、感心したことが何点か。
1 他の果物で無農薬に成功していた例を見ていたので、リンゴでもできるのではないかと思ったこと。
2 自分がやめてしまったら、無農薬でリンゴを育てることは不可能と決めつけられてしまうという危惧。
3 途中、あきらめようと思ったとき、「いったい、これまで我慢してきた貧乏はなんのためだったの」という子供の声。
4 土壌にカギがあるのではないかという、目のつけどころの変化。
5 心がこもっていないと、どうしても手抜きをしてしまう。だから一見、非効率と見えることも、コツコツとやっていくこと。

 DVDはテレビ番組で放送されなかった部分もでています。(放送は見ていませんが、ボクは)
木村さんご自身は言わずもがなですが、ご家族も立派だなと思いました。お嬢ちゃんの言葉(「ここでやめたら、これまでの貧乏はなんのためだったの」)には、特に心を動かされました。
 奥様とご自身でチャレンジしてきた無農薬リンゴですが、もし、人を雇っていたとしたらどうなっていたのか?社員に給料も払えないというような状況の会社が、今のような時期は、たくさん出てきていると思うのですが、家族だけでやっていたから、苦節10年の我慢もできたのでしょうか。
 ちなみに、DVDの値段は、アマゾンで2912円で販売されていますが、定価は3675円です。NHKも、視聴料で番組を作り、さらにDVDが売れると、いい商売だなと、これにも感心しました。

『アメリカの黒人演説集』(岩波文庫)

 アメリカは演説集をたくさん出版する国だなと思います。記念講演の類も多いように思います。ボクが、2年前出版した『グラデュエーション・デイ』も、アメリカの大学の卒業式で行われる記念講演を集めたものです。

 岩波文庫から最近でたこの本には、アメリカの黒人リーダーたちが行った21の演説が含まれています。マーチン・ルーサー・キングの有名な演説、「私には夢がある」("I have a dream")も含まれています。そして21番目には、今月大統領に就任するオバマが、2005年6月4日、イリノイ州にあるノックス大学(Knox College) の卒業式で行ったスピーチも含まれています。Change という言葉は出てきませんが、Challengeはたくさん出てきます。人生の焦点をカネ儲けだけに合わせるのでなく、「国家が直面している挑戦を、あなたがたの挑戦と捉える」こと、「あなたがた自身への義務があるから、挑戦を引き受けねばならない」、「あなたがた自身の可能性を認識するのは、自分より大きなものに関与したときです」と訴えています。

 このときは、前年に連邦上院議員になったばかりですが、現在につながるビジョンを繰り返し提示しています。

 講演の録音は、英語のテキストとともに、以下のサイトで聞くことができます。

American Rhetoric: Barack Obama

書籍『奇跡のリンゴ』(石川拓治著)

 あけましておめでとうございます。2009年もよろしくお願いします。
『奇跡のリンゴ』は、2009年最初に読み終えた本。昨晩からずっとこの本を読みながら、新年を迎えました。
 無農薬農法によるリンゴ作りに成功した木村秋則(あきのり)さんの物語です。一人の人が、生きている間に取り組むべき仕事とは、どういうことなのか、考えてしまいます。この方のように、金も、名誉にもまったく興味を持たず、ひたすら自分が使命と信じることをやり通していく方を尊敬します。
 2008年中訪問した場所の中で、ひときわ記憶に残っているのが青森の弘前です。この木村さんがリンゴ作りに励んできたのが、この弘前の岩木山ふもと。弘前には、ほんの4時間ほどしかいませんでしたが、もう一度、きっと訪問するだろうなと思っています。青森空港からバスに乗って弘前市内に向かう途中目にした岩木山とリンゴ農園が忘れられません。
 この本を読むと、現在の農業が農薬漬けになっていて、安全なリンゴを作ることと、安全にリンゴを作ることのどちらもできていないこと、いまのようなリンゴ作りに疑問を持っている方も多いこと(自分にはできなくても、10年以上も苦節を重ねた木村さんを陰ながら応援している人たちがいた)、木村さんが自分のりんご園から学んだことが非常に普遍的な価値を持つこと、木村さんがリンゴ作りから「システム発想」をどんなシステム発想の研究者よりも体現していることを知りました。
 「人が生きていくために、経験や知識は欠かせない。(中略)けど人が真に新しい何かに挑むとき、最大の壁になるのはしばしばその経験や知識なのだ。」「パイオニアは孤独だ。何か新しいこと、人類にとって本当の意味で革新的なことを成し遂げた人は、昔からみんな孤独だった。それは既成概念を打ち壊すということだから。過去から積み上げてきた世界観や価値観を愛する人々からすれば、パイオニアとは秩序の破壊者の別名でしかない。」「岩木山で学んだのは、自然というものの驚くべき複雑さだった。その複雑な相手と、簡単に折り合いをつけようとするのがそもそもの間違いなのだ。」
 われわれ人間も、その複雑な自然の一つでしかないのだから、自分を、そして他人を理解することも、簡単なことではないということも、この本を読んで感じることの一つです。
 この本の表紙にある木村さんの顔写真から、パイオニアとしてのご苦労を想いました。たいへん立派な方だと思います。
 

『新聞再生_コミュニティからの挑戦』(畑仲哲雄著)

 この本を読んで初めて、戦前の日本には、1200以上もの日刊新聞があり、週刊や旬刊の新聞を含めると、7700もの新聞紙があったことを知りました。それが、1930年代後半から、40年代前半にかけて、新聞統合と呼ばれる業界再編が行われ、少数の全国紙と、各県に地方紙一紙を配置するという「一県一紙」政策がとられたそうです。このときできあがった業界地図が、戦後70年も保存されています。野口悠紀夫先生が、日本経済の基礎的枠組みとして、戦中経済体制からの脱皮ができていないことをしばしば書かれていますが、新聞業界もそのひとつだということでしょうか。
 先日、大分を訪問した際、大分合同新聞を訪問しましたが、この新聞社は、40年代前半、県内の複数の新聞社が合併して出来上がった新聞社で、大分県における、「一県一紙」です。
 さて、『新聞再生』ですが、共同通信に勤務する著者が、大学院に通いながら書いた論文を、新書用にまとめたもの。地方紙の挑戦と挫折をレポートしながら、新聞なるもののこれからの姿を探っています。
 以前紹介した
新聞社_破綻したビジネスモデル(河内孝著、新潮新書)とあわせて読むとおもしろいです。