小尾俊人著「出版と社会」

9月27日の朝日新聞(朝刊)に、「本を世に送り出す人たち」(シリーズ・肖像)という、4ページの広告特集がありました。出版に関わってきた4人のベテランたちが紹介されています。それらは、松居直(児童文学者)、大岡信(詩人)、永井伸和(今井書店会長)、そして、僕が好きなみすず書房共同創業者である小尾俊人(編集者)の4名。

ちょうど今、小尾さんがお書きになられた『出版と社会』(幻戯書房)を読んでいます。定価9500円(税別)の大きな本で、一体、どれだけの人が読むのだろうか、僕みたいな物好きが読むのかなと思いながら、八重洲ブックセンターで買った本です。関東大震災後、昭和前半の出版業界の歴史をたどったものですが、出版(事業)に関して考えるための、さまざまなヒントが含まれている本です。アマゾンにあるこの本に関するコメント(「出版関係者の必読書」)には、同意です。以前、同じ著者による『本は生まれる。そしてそれから』(幻戯書房)という本も読みましたが、素晴らしい内容の本でした。

朝日の特集記事のなかで、小尾さんは以下のように話されています。

  • 本とは、人間であることを証明する唯一の遺産。そうした本は人格を育てます。「地の子らの最高の幸福は人格である」とはゲーテの言葉。18歳の時に読んで、感銘を受けたのですが、これまで生きてきてその言葉は本当であったと思います。

実は昨日からハワイのホノルルに来ています。こちらの日曜日朝6時15分からスタートするホノルル・センチュリーライドで昨年同様160キロ(100マイル)を走るつもりです。夜、ひとりホテルの部屋で、小尾さんの本を読みながら、静かな時間を過ごしています。贅沢な時間に感謝しています。

司馬遼太郎のこと

昨日、高知県出身の方とお会いしました。僕が高知県生まれだということを、黒犬通信でご覧になられて、一度会いたいということでご来社されました。ビジネスのことを話し終えると、いつの間にか、高知の話になっていました。僕は、子供の頃の大半を愛媛県側で過ごしたとは言え、生まれは高知県なので、高知県という、日本の歴史、特に明治維新に多大なる貢献をしつつも、そのあと、表舞台からは消え去ってしまったようなこの県のことを、時々考えます。高知県といえば、坂本龍馬ですが、坂本龍馬の最大の「ファン」というか「プロモーター」が、作家の司馬遼太郎さんでした。

新潮文庫で、「司馬遼太郎が考えたこと」というシリーズが、全15巻でています。司馬さんが書かれたほとんどすべてのエッセイが収録されています。僕は今第5巻を読んでいるのですが、すこしずつ、時間をかけながら全15巻を読み終えるつもりで、もうすでに、このシリーズの本をすべて買っています。今読んでいる文章は、司馬さんが今の僕と同い年くらいに書かれたもので、同じ年代の頃、どのような問題意識をお持ちになられていたのかにも、とても興味があります。時代的にはだいたい1970年前後、日本の高度成長期のまっさかり、敗戦から15年くらい経った頃です。

司馬さんは、ご自分ではエッセイが好きでない、あまり書きたくない、というようなことを書かれています(第4巻)が、僕は司馬さんのエッセイが小説よりも大好きです。実は、高知県生まれでありながら、「龍馬がゆく」は第1巻目で挫折してしまいました。どうも歴史小説は苦手です。でも、司馬さんのエッセイは大好きです。お人柄や日本という国に対する想い、この国で生きて死んでいった人たちへの司馬さんの愛情を、とても強く感じさせてくれます。きっと、僕のような読者は、司馬さんの読者の中では、決して、いい読者ではないのかもしれません。

司馬作品を愛読書に上げる、政界、財界の「エライ人」が多くいらっしゃいます。多くの「エライ人」たちは、坂本龍馬が好きだと言われるのですが、やってらっしゃることは、なんとなく、徳川家康だなと思います。そんなこともあって、司馬さんをずっと敬遠していて、司馬遼太郎の読者になったのは、ほんの数年前からです。でも、司馬遼太郎という一人の作家と出会って、とても良かったなと思っています。だから、これから、何度も、黒犬通信で、司馬さんのことを書くだろうなと予想しています。

昨日、今年入社してくれた新人たちに、司馬さんのこのシリーズを売り込んだのですが、いつの日か、彼女たちも、日本の歴史に興味を持つようになって、司馬遼太郎のエッセイを読んでくれればいいけどなと思っています。

「自己啓発本」の必要がない中国

Dsc_0017 今朝は、オデッセイの社員のHさんと8時から荒川沿いの土手を、葛西臨海公園からスタートして、河口から20キロ強のところにある北区志茂あたりまで走り、再び、葛西臨海公園までサイクリング。荒川の河口から、埼玉県の和光市あたりまで、30キロ強くらいなので、往復できない距離ではないなと思いました。実際、今日、引き返した地点から10キロほどで埼玉県でしたので、あと30分ほど走ればいいところまで来ていました。自転車は、一人ではなく、仲間といっしょに走ることで、遠いところまで楽しく行くことができます。

ところで、先週会った出版関係の方からお聞きしたのですが、中国では、いわゆる自己啓発本は、売れないそうです。なぜなら、自己啓発なんて、他人から言われなくても、みんなが、ハングリー精神の塊みたいになっているので、技術的な本であり、経営の本であり、もっと実際的で、即役に立つ技術の本などが求められているということでした。アメリカの本屋でもSelf-improvement とか、Self-helpというようなカテゴリーの本を集めたコーナーが、どこでも見られますし、日本もこの手の本が多いなと思います。

今年、オデッセイで出版したGraduation Dayも、広い意味では、自己啓発の本です。どちらにしろ、今の中国人ほど、燃えている状態だと、他人から激励や叱咤など、まったく必要なくて、反対に、日本人のように、「なんのために、生きているのか?」とか、「なんのために勉強しないといけないの?」と、贅沢な悩みを持っている国民は、ユンケルじゃないけど、滋養強壮剤(=自己啓発本)でも飲まないと、やる気がでないということでしょうか?

小林秀雄「ゴッホについて/正宗白鳥の精神」

新潮社からでている小林秀雄の講演CD第七巻「ゴッホについて/正宗白鳥の精神」を何度か聴いています。本当の個性とはどういうことなのか、「考えるヒント」を与えてくれる、小林秀雄の話です。車の中で、今週、繰り返し、繰り返し聴いています。10回くらい聴いていると、すこしずつ、小林秀雄の言っていることが見えてきます。

小林秀雄を崇拝する人には、ちょっと失礼かもしれませんが、小林秀雄の話し方を聴いていて、スリムドカンで有名な「カリスマ中卒」の斉藤一人さんの話し方を思い出しました。

「なぜ日本人は劣化したか」(香山リカ著)

マスコミでも常連の精神科医による本(講談社現代新書)。帯には、「緊急提言! 日本と日本人の学力・知性・モラルの崩壊が始まっている!」とあります。

新聞や雑誌などで読んでいるようなことではありますが、まとめて読んでみると、あらためて愕然とする内容。僕はこの本の翻訳がでて、外人が読むようなことがないことを祈っています。まだ多くの外人が、日本人は勤勉でまじめだと思っていると想像しますが、この本に書かれていることを読んだ外人は、日本経済の将来に一気に悲観的になるのではないかと思うからです。反対に、日本株に下がってもらいたい人は、この本を英訳して外人投資家に配ることです。10年後、あるいは20年後の日本を考えると、ぞっとします。

『娘に贈る12の言葉』(ジム・ロジャーズ著)

ジョージ・ソロスと立ち上げたヘッジ・ファンド、クォンタムファンド以降の成功で世界的に有名な投資家が、60歳にしてできた娘に向けて書いた、「人生と投資で成功するために」という副題を持つ本。決して奇抜なことは書かれてませんが、それを継続的に、実行できるのかどうかが、成功する投資家(ビジネスマン)を、その他の投資家(ビジネスマン)から際立たせるのかと思います。12の言葉は以下のとおり。

  1. 他者に流されてはいけない 
  2. 大好きなことに情熱のすべてを注ぎなさい 
  3. 常識はそれほど常識ではない 
  4. 世界を自分で見ておいで
  5. 哲学を、つまり「考える」ということを学びなさい 
  6. 中国の時代、中国語を身につけてほしい 
  7. 歴史を勉強しなさい 
  8. 汝自らを知ること 
  9. 変化をとらえ、そして受け入れなさい 
  10. 未来を見つめなさい 
  11. 大衆に逆らいなさい 
  12. 幸運の女神は努力を続けた者に微笑む

著者のジム・ロジャーズは、一度はバイクで、もう一度は改造したベンツで、世界一周を二度おこなっている、行動的な投資家です。僕の好きなビジネスマンの一人。

最相葉月さんの「読書日記」

今年前半、オデッセイコミュニケーションズで提供していたラジオ番組、Library by Odyssey でパーソナリティをしていただいた、ノンフィクション作家の最相葉月さんが、今日の日経新聞・夕刊「読書日記」のコーナーで、ご自分の読書体験を書かれ始めています。最相さんの「星新一・1001話をつくった人」は、第29回講談社ノンフィクション賞を受賞されています。僕はこの本を読んで、星新一のさまざまなことを初めて知りました。お薦めの本です。