『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』、そして「バベル」(DVD)

知り合いと村上春樹の話をしていて、「ずっと前、『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』を読み終えたあと、翌朝までずっと泣いていた」という話を聞き、買ったままで手をつけていなかったこの本を読み始めました。それだけの感動を与えた作品よりも、それだけの感動を覚えた知人の感受性に、興味を持ちました。

昨日は、11月2日に発売になったばかりの映画『バベル』のDVDを買いました。

数回、この映画のことを書いたのですが、菊池凛子は、この映画一本で、世界の多くの人たちの記憶に残る仕事をしたと思います。

英文で読む村上春樹のインタビュー

先月、村上春樹のエッセイ『走ることについて語るとき』のことを、2度書いたら(メモった程度です)、村上春樹、あるいは本のタイトルとの組み合わせで、黒犬通信にいらっしゃる方たちが大勢いて、村上春樹の人気の高さを感じます。

日本での村上春樹の顔だけでなく、海外、特にアメリカでの村上春樹自身の発言を読むと(もちろん、英文で、ということになりますが)、日本であまり知られていない村上春樹を知ることが出来るのではないかと思います。僕の印象では、日本の村上春樹ファンの多くが、村上春樹は政治にあまり関心を持たない、非政治的な作家としている人が多いように思うのですが、間違いでしょうか?ところが、アメリカの雑誌などでの村上春樹の発言は、日本人の歴史認識(あるいは日本人の歴史忘却)に関しても、及んでいることが多々あります。

数ヶ月前になりますが、文芸誌『文学界』(「ガク」という字は、本当は、旧漢字です)という、昔はよく買っていた雑誌の7月号で、「村上春樹の知られざる顔」という文章がでています。海外雑誌などのインタビューに答えた村上春樹の発言をたどっていったもので、日本の雑誌では読めない村上を知ることができます。このエッセイの終わりに、引用元が掲載されていますので、英文で読んでみるとおもしろいかもしれません。僕自身は、海外での村上春樹の発言を、どちらかと言うと、好意的に読んでいます。

ちなみに、グーグルで、"haruki murakami" interview と単純に検索しただけでも、結構の数のインタビュー記事がでてきます。

「反骨のコツ」(朝日新書)

1913年生まれ、今年93歳になる元・最高裁判事であり、日本の刑事訴訟法の大家である團藤重光と、65年生まれで、音楽家でもあり、東大大学院情報学環准教授でもある伊藤乾(「東大式絶対情報学」著者)の対談。團藤先生が熱心な死刑廃止論者であることを知りました。陽明学を支えとする先生が、勧める反骨のコツ。法学部でありながら、まじめに法律を勉強しなかった僕が、今頃、團藤先生の本を買うなんて、夢にも思っていなかったです。

なお、以下のブログには、東大式絶対情報学の読者ブログに、著者の伊藤氏からのコメントが届き、こういう形で、著者と読者が結びつきうるのかと、おもしろく拝見しました。→40代真面目気分

「暴走老人!」(藤原智美著)

10月8日号の日経ビジネス(「著者に聞く」のコーナー)で、ノンフィクション作家・藤原智美さんの話しを読みました。

今の世の中、老人にとって暮らしにくい社会になっている。それはITを使いこなせているかどうかが原因のひとつだ。携帯電話やパソコンは単なる便利な道具ではなく、生活の基盤になりつつあり、この事態に対応できない老人は焦りを抱えているのではないか?情報難民となっていることが、老人の暴走につながっている。こういう趣旨のお話でした。

老人がITを使えること、あるいは老人にも使えるITであること。子供や学生だけにとってのITリテラシーではなく、老人にとってこそ、ITリテラシーは切実な話しだとあらためて思いました。

「NYブックピープル物語」

副題は、「ベストセラーたちと私の4000日」。講談社アメリカの社長として、活躍された浅川港さんの、アメリカの出版界における奮闘記。一橋大学の卒業生で、出版の世界でこのような活躍をされている方を知って、驚きました。アメリカの出版ビジネスのことも勉強になりました。

ところで、名前にNTTとある会社は、イノベーションとは遠い、官僚的な組織が多い印象がありますが、この本の出版元であるNTT出版は、とてもおもしろい、イノベーティブな内容の本をたくさん出しています。先週アマゾンで買った、池上英子著「名誉と順応(サムライ精神の歴史社会学)」も、NTT出版の本です。

zadig & voltaire

0049 仕事で久しぶりに六本木ヒルズへ。

これまでずっと気になっていたヒルズに入っているアパレルショップの名前が、zadig & voltaire. ヴォルテールはもちろん、フランスの哲学者・作家ですが、zadigというのは、そのヴォルテールの作品の主人公の名前だということを知りました(wikipedia 参照)。ヴォルテールの別の小説に、キャンディード(Candide)という作品があり、こちらは日本語訳もでていて、岩波文庫で読んだ記憶があります。また、レナード・バーンスタインがヴォルテールの小説から作った「キャンディード」があり、このCDの最後に入っているMake Our Garden Grow という歌は、名曲です。

zadigのほうは日本語訳も出ていないようですので、一度、英訳を読んでみようと思います。ウィキペディアには、「キャンディードに次ぐ、ヴォルテールの評価作品だ」とあります。

再び「走ることについて語るときに僕の語ること」について

村上春樹のこのエッセイ(彼はこの本のことを、ランニングという行為を軸にした一種の「メモワール」として読んでもらっていい、と言っていますが)には、村上春樹の「哲学」のようなものが含まれていて、それがこの本の魅力のひとつになっています。たとえば、こんな文章があります。

  • 真に不健康なものを扱うためには、人はできるだけ健康でなくてはならない。それが僕のテーゼである。つまり不健全な魂もまた、健全な肉体を必要としているわけだ。(中略) 健康なるものと不健康なるものは決して対極に位置しているわけではない。対立しているわけでもない。それらはお互いを補完し、ある場合にはお互いを自然に含みあうことができるものなのだ。往々にして健康を指向する人々は健康のことだけを考え、不健康を志向する人々は不健康のことだけを考える。しかしそのような偏りは、人生を真に実りあるものにはしない。

あと10年、いや、あと5年でも、僕がサイクリングを継続することができたなら、村上春樹にならって、サイクリングという行為と自転車という道具との付き合い方を主題としたエッセイを書いてみたいと思います。

村上春樹著「走ることについて語るときに僕の語ること」

司馬遼太郎もそうだけど、僕は村上春樹についても熱心な小説の読者ではありません。20年ほど前、「羊をめぐる冒険」と「ノルウェーの森」のほか、一、二冊読んだかどうかです。でも、村上春樹のエッセイ、特に走ることに関して書かれた文章を読むのは、大好きです。99年6月1日号の雑誌『ブルータス』にでていた村上春樹の特集は、走ることでどのように文体が変わってきたかについて彼が語っていたことがとても印象に残っていて、今でも本棚のどこかにしまってあるはずです。

村上春樹には勝手に親近感を感じている点がいくつかあります。彼も一人っ子であること、早寝早起きの、かなりストイックな生活を継続していること。

この本は昨日、いつもお世話になっている新東京ビル地下一階の大手町書房で、表紙だけをみてぱっと買った本。今日一日で読み終えてしまいそうなほど、共感を覚えています。蛇足ですが、この本の中に、「筋肉はつきにくく、落ち易い。贅肉はつき易く、落ちにくい」という言葉がでてきます。人間の体だけでなく、会社組織にも当てはまります。

梶山季之『ルポ戦後縦断』

45歳の若さで1975年になくなった作家が、おもに1950年代終わりから60年代にかけて、雑誌(中央公論、週刊文春、文藝春秋など)に書いた記事を集めたもの。「丸ビル物語」(昭和33年、1958年5月発表)に引かれて買ったのですが、もちろん、この丸ビルは今の丸ビルではなく、初代の丸ビルのこと。今にも共通する丸の内界隈の勤め人の様子が伝わってきて、おもしろく読みました。そのほか、「ブラジル勝ち組を繰った黒い魔手」(昭和41年、1966年発表)というのも、本当にこんな荒唐無稽の話があったのかと、ちょっと信じられない話です(上海で、日本の軍票や紙幣を集めていたユダヤ系ビジネスマンが、予想よりもはやい日本軍の降伏のため、無価値になったそれらのお金を、ブラジルにいる日本人移民に、日本軍が勝ったことにして、大量に売りつけていたという話)。

そのほか、14の話が収められていて、どれもおもしろい話ばかりです。さすが、「トップ屋」といわれて、スクープ記事を連発した作家です。

小尾俊人著「出版と社会」

9月27日の朝日新聞(朝刊)に、「本を世に送り出す人たち」(シリーズ・肖像)という、4ページの広告特集がありました。出版に関わってきた4人のベテランたちが紹介されています。それらは、松居直(児童文学者)、大岡信(詩人)、永井伸和(今井書店会長)、そして、僕が好きなみすず書房共同創業者である小尾俊人(編集者)の4名。

ちょうど今、小尾さんがお書きになられた『出版と社会』(幻戯書房)を読んでいます。定価9500円(税別)の大きな本で、一体、どれだけの人が読むのだろうか、僕みたいな物好きが読むのかなと思いながら、八重洲ブックセンターで買った本です。関東大震災後、昭和前半の出版業界の歴史をたどったものですが、出版(事業)に関して考えるための、さまざまなヒントが含まれている本です。アマゾンにあるこの本に関するコメント(「出版関係者の必読書」)には、同意です。以前、同じ著者による『本は生まれる。そしてそれから』(幻戯書房)という本も読みましたが、素晴らしい内容の本でした。

朝日の特集記事のなかで、小尾さんは以下のように話されています。

  • 本とは、人間であることを証明する唯一の遺産。そうした本は人格を育てます。「地の子らの最高の幸福は人格である」とはゲーテの言葉。18歳の時に読んで、感銘を受けたのですが、これまで生きてきてその言葉は本当であったと思います。

実は昨日からハワイのホノルルに来ています。こちらの日曜日朝6時15分からスタートするホノルル・センチュリーライドで昨年同様160キロ(100マイル)を走るつもりです。夜、ひとりホテルの部屋で、小尾さんの本を読みながら、静かな時間を過ごしています。贅沢な時間に感謝しています。