ツールドフランス2009の終わり

先週末で、今年のツールドフランスが終わってしまいました。復帰したランス・アームストロングも3位で表彰台にのぼり、二人の日本人選手も完走。おかげさまで、American Book & Cinema から出版されている2冊のツール関連本(「ツールドフランス_勝利の礎」と「ランス・アームストロング_ツールドフランス永遠のヒーロー」)も、多くの方々にお読みいただいています。
ツールが終わったので、ようやく早寝、早起きに復帰できそうです。
American Book & Cinema

『「ふるさと」の発想』(西川一誠著、岩波新書)

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 カイは右耳の中が汚れてしまって炎症気味。今回2回目の治療。薬を入れてもらい、掃除。かなりよくなりました。
動物病院開店1時間前に行ってしまったので、そばの公園の芝生の上でカイをそばに、本を読みました。西川一誠著『「ふるさと」の発想_地方の力を活かす』。著者は自治省の役人から、福井県副知事を経て、現在知事をなさっているかた。
「ふるさと納税」の提案者として知られる方です。
 昨年初めて福井を訪問したので、興味を持って読ませていただきました。この本のなかで書かれていることで、驚いたこと。
1 明治時代初期の国税収入のおよそ三分の二(多いときには九割)は、地租であった。そして、その最大の納税地域は、新潟県と北陸地方(富山、石川、福井)であった。1887年(明治20年)には、この地方の納めた国税は、東京が納めた税の約四倍であった。
2 1965年には、太平洋地帯にある五都県(東京、千葉、神奈川、静岡、愛知)に約一兆円、当時の国家予算の四分の一を超える額が投資されている。これに対して、日本海側(新潟、富山、石川、福井、鳥取、島根)は、全体予算の一割弱(約2700億円)が投資されたに過ぎない。
3 1965年から10年間の累計では、太平洋ベルト地帯への総投資額は約24兆円、日本海側への投資額の四倍以上である。
4 明治期の人口統計によると、1873(明治6)年当時に最も人口が多かったのは約140万人の新潟県。当時、東京府は約110万人で五番目である。
5 人口82万人の福井県では、毎年約3000人の若者が進学や就職などにより県外に出て行く。そのうち戻ってきてくれるのは約1000人。毎年約2000人が減ってゆく計算である。福井県で成長する若者が出生から高校卒業までに受ける行政サービスの総額は、一人当たり約1800万円。ざっと計算して数百億円規模の公的支出が、大都市へと流出しているのと同じことである。

 これらのことを読まされると、地方の活性化は、地方のこととしてほったらかしておくのではなく、国家プロジェクトとして取り組むべきと思いました。現在の東京の繁栄は、東京の人間の努力の結果ではなく、国家政策、そして上京していった地方人の活躍の結果とも言えることかもしれません。これまで、首都圏を優先した投資方針を考え直し、地方を復活させるための投資を行っていかないと。
 表日本、裏日本という、ちょっと嫌な言い方がありますが、これは一種の地域差別だなとさえも感じました。裏表は実は反対になっていてもおかしくないはずですから。
 この2年ほど、東京をでて、さまざまなエリアを訪問していますが、地方の衰退を強く感じています。ボク一人ができることなどたいしたことはありませんが、これは本当にたいへんな課題だと思っています。
 西川知事、頑張ってください。

『村田良平回顧録上巻_戦いに敗れし国に仕えて』(村田良平著)

 最近読んだ本の中で、もっとも骨があり、かつ著者の信念を強く感じた本です。週末、上巻を読み終えましたので、今週から下巻に取りかかろうと思っています。日本の政治家や高級官僚の方たちの中で、しっかりした回顧録をお書きになられる方が非常に少ない印象を持っていて、いつも物足りなく思っていましたが、この本は例外中の例外です。作者が、日本とわれわれ日本人に残そうとする遺書なのだろうと思いながら、ボクは読んでいます。
 一般にはそれほど知られていない方かもしれませんが、日本の代表的な外交官のお一人で、80年代から90年代にかけて、外務省事務次官、駐米大使、駐独大使を歴任されました。まさに戦後の日本外交を、事務方において支えていらっしゃったトップのお一人です。最近、日米間の核兵器持ち込みに関わる密約の存在に関して、マスコミの取材に応じてオープンにされています。実際、この上巻において、以下のように明記されています。
 「実は、核兵器を搭載する米国感染の日本への寄港と領海通過には事前協議は必要としないとの『密約』が日米間にあった。つまりこの点については、政府は国会答弁において、『米国からの事前協議がない以上、日本へ寄港ないし日本の領海と通航する米国艦船に核兵器を積んでいるはずはありません』との一貫した説明を続け、国民を欺き続けて今日に至っているといえる。」(上巻ページ263)
 政治家、学者、同僚たちの人物評価も非常に面白く読ませていただきました。下巻を楽しみにしています。

古森義久さんの『村田良平回顧録』評
47 News
岡崎久彦さん(村田さんと外務省同期)の本書に関するエッセイ

 

『日本国の正体』(長谷川幸洋著、講談社刊)

 一部で話題になっている日本の権力構造分析の書。著者は、東京新聞論説委員。政治家、官僚、メディア、いったい誰が本当の権力を持っているのか? あらためて、利益集団としての官僚たちの強さを感じました。つまるところ、日本の政策を作り、実行してきたのが彼らであり、政治家やメディアは、官僚の「ポチ」(著者の言葉)にすぎなかったということが何度も強調されます。
 大学の頃、一時、就職先として新聞社を考えたこともあるのですが、そちらの分野にいかなくてよかったなと思っています。この本を読んでいても、決して魅力を感じません。また、申し訳ありませんが、この本で描かれている霞が関の現状にも尊敬の念を持つことは難しい。この本の中で実名であげられている一部の政治家にいたっては、哀れみさえも感じてしまいました(例:アル中で、あの無様な記者会見のあと、辞任した大臣)。
 政治家やメディアの人間が、どうして官僚の「ポチ」になってしまうのか?いろいろと理由はあると思うのですが、頭の悪くない官僚たちに対抗するだけの勉強の時間や調査していくだけの組織力を持たないこと、情報が官僚たちに集中しがちであることなど、基本的なところで大きなハンディキャップがあるように思います。
 外務省の秘密文書を、外務官僚たちが隠蔽し、さらには秘密裏に廃棄していたことが今週の各紙で連日報道されています。この動きの背後に、どのような思惑があるのか、なぜ外務省の元高官たちがこのことを新聞各紙に認めつつあるのか、来る選挙での政権交代の可能性との関連は?などなど、ボクのようなノンポリでもちょっと関心を持っています。
 
『日本国の正体』にかえると、著者は、新聞は速報の役割は通信社にまかせ、もっと分析に注力するように提言しています。それは、自分の頭で、しっかり考えよということもあります。ビジネスでも思うのですが、孤独に耐え、自分の頭でしっかり考え続ける人が、日本には少ないように思います。他人事ではなく、自分にとって、大きな課題としてずっと感じていることでもあります。村社会の付き合いの中で、自分の考えを持つことは、決して容易いことではないのですが、それなくして、オリジナルなこと、普遍的なことを考えたり、実行していくことができるのか?
 それから、この本のひとつの問題提起は、
「税金は、誰のものか?」ということです。今回の不況対策としての補正予算14.7兆円のうち、減税に代わるものとして実行された定額給付金は2兆円。これ以外は、基本的に直接われわれ国民に「還元」されるのではなく、官僚たちのさまざまなフィルターを通してばらまかれるお金です。決して多額の金額ではないかもしれませんが、ボクもバカ正直に税金を払ってきています。この国で生まれ育ち、生命の危険もそれほど感じることなく、日々安全なうちに経済活動を行っていくことができるのは、日本という国家のおかげかと思っています。そうとはいえ、税金はもともとわれわれ国民のために使われるべきであって、特定の利益集団のために使われるべきものではないはずです。
 そういう意味で、著者が「定額給付金は決してばらまきではない。もっとも公平にすべての国民に分配されたもので、もっと大きな金額であるべきだった」という意見に、ボクは目からウロコでした。
 政権交代がかかる選挙まで、あとわずかの時間しか残されていませんが、選挙前に一読する価値はある本かと思いました。

『大変!_その原因と対応』(大武健一郎著)

 ある昼食会で著者のお話を拝聴。著者は、1970年に旧大蔵省入省、主税局長、国税庁長官を歴任。税金のプロ中のプロ。
と言っても、今日のお話は税金のお話ではなく、最新の著書である『大変!』からのお話。この「大変!」というのは、「大きな変化」の略で、この20年近くの間に起こっている変化の原因、内容を理解し、新しい状況に対応していこうということ。
 内容は雑誌にお書きになられたようなことをまとめていて、気軽に読み通すことができます。
中国、ベトナムでも教鞭をとられ、日本においては、大塚ホールディングス副会長、TKC全国界筆頭副会長。メチャクチャ、話題の豊富な方でした。
 しなやかな発想と行動力をもち、粘り強いこと
 「現場」を大切にすること
など、企業経営にもヒントになるお話満載でした。
 もっと自信と勇気を持て、というメッセージ、大賛成!(そして現場を知らないマスコミの流す悪い話ばかりに振り回されるな、とも。)

今年のツールドフランスを楽しむために

 昨日今年初めてと言っていいくらいなのですが、家のまわりを自転車で20分ほど走りました。まだ腰痛がひどいので、本格的に走ることはできないのが残念です。仕事のスケジュールもあって、過去3年参加しているホノルルセンチュリーライドは今年はあきらめています。
 今年のツールドフランスには、7連覇を果たしたランスアームストロングが復活したことだけでなく、別府選手と新城選手というふたりの日本人サイクリストが参加していることもあって、これまで以上に日本でも関心が高まっているように感じます。
 ツールを楽しむためにも、期間中に、ぜひ『ランスアームストロング〜ツールドフランス永遠のヒーロー』をお読みください。なんと言っても、ボクらの企画でイギリス人ライターによって書かれた本です。まず日本語訳が、そしてこれから英語版の出版が予定されている書籍です。世界に先駆けて日本で読むことができる、引退から復活までのランスの物語です。
 早寝早起きのボクとしては、最後までみることができないのですが、J Sportsのツール実況放送も見るようにしています。

american book & cinema
J Sports Cycle

「ランス・アームストロング」_ツールドフランス永遠のヒーロー

 
 ちょっと長いタイトルになっていますが、アメリカンブック&シネマの次回作品です。(タイトルが長いのは、担当しているSの趣味か?!)
 この本は、実は日本オリジナルなんです。イギリスのサイクリング雑誌で読んだランスアームストロングの記事を書いたライターに、ボクがお願いして書いてもらったのがこの本なんです。ちょっと贅沢というか、すごいでしょう!(自画自賛です)。
著者のマット・ラミーとは、去年、フランクフルトブックフェアからの帰路、ロンドンに一泊して面談。事前にメールでやり取りはしていましたが、会ったのはもちろん初めて。引退してから復活を宣言するまでの時期を中心としてランスの本を書いてほしいというリクエストをしたのです。ホテルのそばの安カフェでココアをすすりながら話をしました。
 7月4日に始まるツールドフランスにあわせて、翻訳家の井口耕二さんにも頑張っていただきました。また、ツールドフランスのTV中継のナビゲーターでもあるシラトタローさんにも監修いただきました。ツールファン、ランスファンの皆さんには、きっとご満足いただけるはずです。アマゾンではすでに予約注文ができますし、本屋では7月3日前後から店頭にならびます。よろしくお願いします。

 
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ランスアームストロング@amazon
井口耕二さんのお仕事

松本健一著『日本の失敗』(岩波現代文庫)

 先月、松岡正剛さんの「連塾」で、著者である松本健一さんの話をお聞きする機会があり、その場で買った本がこの『日本の失敗』。副題は、「第二の開国」と「大東亜戦争」。著者は、第一の開国が明治維新、第二の開国が大東亜戦争戦後、そして第三の開国は90年代以降現在進行中。現在日本で議論になっている、どれだけ外に開かれた国になるべきなのか、海外諸国との関係構築のありかた、政治と自衛隊の関係、政治家の役割、天皇の位置づけなど、さまざまな論点を考えていく上でヒントになる本です。
 大東亜戦争(太平洋戦争)への過程における日本の政治家の情けなさに今の政治を見る思いをすると同時に、石橋湛山、斎藤隆夫というふたりのすごいジャーナリスト、政治家が、正確な状況分析と自分の信じる議論を展開していたことに、われわれが誇りに思える先輩たちがいたことを改めて思いました。また、アメリカのスチムソン国務長官の日本分析(シビリアンコントロールの欠如が日本の内政の問題であり、それがアメリカをはじめとする諸外国との衝突につながる)の正確さにも感心しました。

二つの書籍、二つの裁判

一日中ゴロゴロしながら読書2冊。偶然どちらも裁判に関連する本。
一冊は、山崎豊子著『運命の人』の第三巻。外務省機密漏洩事件に関わる山崎さんの力作。主人公は、一審で無罪、控訴審で有罪、そして最高裁への上告が棄却され、執行猶予つきの有罪が確定します。元外務省職員で、主人公である新聞記者に機密を漏洩する女性に対する山崎さんの視線には厳しいものがあります。(女性のずるさを浮き立たせています)この小説の終わりを飾る第四巻が楽しみです。
もう一冊は、『比島から巣鴨へ』(武藤章著)。副題は、「日本軍部の歩んだ道と一軍人の運命」。著者は東京裁判において、A級戦犯として死刑判決を受け、1948年処刑されます(享年56歳)。処刑された唯一の中将。歴史における評価が難しい人物のひとり。一部からは武闘派と言われるも、合理主義者でもあったのか。
どちらの裁判も勝者あるいは権力者の政治的判断下にあったもの

アメリカン・ブック&シネマのHP

株式会社アメリカン・ブック&シネマのHPを立ち上げました。
URLは、http://kabc.jp。kabcのkは、株式会社のkです。
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