『日本人へ_国家と歴史篇』(塩野七生著)

 雑誌「文藝春秋」に連載された巻頭エッセイ43本を集めたもの。
この中に、「拝啓 小沢一郎様」という昨年の衆議院選前に書かれた文章があります。この文章は、現在の政治状況を見通したもので非常に正確な予測になっています。安定した政権を確保しない限り大胆な改革ができないだろうこと、民主党と自民党の大連立が必要だろうこと(両党から一部党員が脱落することを想定)、そしてそれを実現できるのは小沢一郎しかいないだろうことを言っています。
 来月の民主党党首選びがどうなるのか、興味をもって見ていきたいです。

アメリカン・ブック&シネマの新刊「ツール・ド・ランス」9月発売予定

 アメリカン・ブック&シネマ(ABC)の最新刊ですが、来月にはいって『ツール・ド・ランス』を発行します。今年のツールドフランス期間中の発行は間に合いませんでしたが、商品の価値にはいっこうに影響はありませんので、ご安心してお買い求めください。著者はビル・ストリックランド。以前、ABCで出しました『ツールドフランス_勝利の礎』の著者でもあります。アマゾンで予約受付を開始しています。

アマゾン予約ページ

 表紙の写真とデザイン、かっこいいでしょう?!ABCの本の装丁は、会社のロゴも制作してくれた10inc. の柿木原さんに引き続きお願いしています。
 ところでABCのブログですが、担当のSという社員が書いています。彼も、僕同様、もうすこしスリムになる必要性があるようで、週末には自転車に乗っているみたいです。

アメリカン・ブック&シネマ

茨木のり子回顧展

 昨夜の朝日新聞夕刊に、詩人茨木のり子初の回顧展が開かれているという記事。群馬県高崎市の県立土屋文系記念文学館で、9月20日まで。ぜひ行ってみようと思う。
 死後発見された挽歌40編のなかから。
「ふわりとした重み/からだのあちらこちらに/刻されるあなたのしるし/ゆっくりと/新婚の日々よりも焦らずに/おだやかに/執拗に/わたくしの全身を浸してくる/この世ならぬ充足感/のびのびとからだをひらいて/受け入れて/じぶんの声にふと目覚める」
 同じ詩人は、こんな言葉でも知られている。
「自分の感受性くらい/自分で守れ/ばかものよ」
茨木のり子展

『水と緑と土_伝統を捨てた社会の行方:改版』(富山和子著、中公新書)

 全国のお取引先を訪問するようになって、改めて日本の歴史と自然に興味を持つようになりました。人を大切にすることは、歴史と自然を大切にすることでもあると思います。ちょっと大げさに言うと、「人、自然、歴史」、それがこのごろの僕のテーマです。
 『水と緑と土』は1974年に出された本ですが、取り上げられているテーマはいっさい古びていません。この本を読みながら、いろいろなことを思い起こしました。その1:僕が育った田舎の家の裏には、近くの湾に流れる川が流れていて、保育園や小学校低学年のころにはこの川でよく泳いだ記憶がありますが、洪水を防ぐためでしょうか、護岸工事が行われ、家庭の汚水が流される汚い川に変わっていきました。(今、どうなっているのか?)その2:この前、岐阜の郡上八幡にある高校を訪問した時の校長先生との会話。当地はかつて林業で栄えたはずですが、今は山を管理する人も少なくなり、山は荒れ放題だということ。でも林業では食っていけないので、都会に若い人は出て行く。
 この本を読んでみて、川と山、森はつながっていて、日本の自然も「複雑系」のひとつであることをあらためて認識しました。また、作者の八ツ場ダム工事への考えを聞いてみたいと思います。
 新書ですが、中身は濃い内容です。至る所にマーカーを引きまくりました。そんなマーカーを引いた一節に以下のような文章があります。
 「伝統を切り捨てることは、明治新政府の国策であった。この乱暴な政策こそ、富国強兵・殖産興業への近道であった。そしてこの国策を背景に日本の科学が出発したことは、日本人にとって不幸なことであった。というのはそれが、自然を商品化し掠奪していく資本の強力な武器となったからである。自然から自己につごうのよいものだけを引き出し、単純化して扱うというその目的、方法において、両者は合致したのである。」
 この本は1974年に初版が発行され、今年7月に改版が発行されました。本の帯には、「環境論のバイブル」とありますが、読み応えのある本です。今年の夏読んだ本の中でもおススメです。

Books I bought in the US

I bought the following books in San Francisco, just before I left the US.
"Why architecture matters" by Paul Goldberger
"TINY Houses" by Mimi Zeiger
"Buddha" by Deepak Chopra
"The Demon-Haunted World_Science As A Candle In The Dark" by Carl Sagan
"Guns, Germs, And Steel_The Fates of Human Societies" by Jared Diamond
"Lapham's Quaterly" (Sports & Games) Summer 2010

『イーグルに訊け―インディアンの人生哲学に学ぶ』(天外伺朗、 衛藤信之著)

上海往復の機内で読み終えた本です。先日ご紹介した『神話の力』と共通するテーマが取り上げられています。この本は2、3年前に買った本で、ベッドの横に積んだ本の中に埋もれていましたが、『神話の力』を読んだこともあってこの本を手に取ってみました。
天外伺朗は、 ソニーの技術者で、ロボット犬「AIBO」の開発責任者として知られる一方、ニュー・エイジ系の著作も多い方です。
 
「お年寄りと子どもを離してはいけない。彼らを引き離すことは、過去と未来を断つことと同じだ」(ラコタ族長老の言葉)
この言葉だけでも、この本を読んでみる価値があるのではないかと思わせてくれるはずです。
僕は飛鳥新社からのハードカバーで読みましたが、ソフトバンクパブリッシングから文庫もでているようです。

iPad on Business 出版記念パーティ

知人の大木さんが今月末、iPad on Business という本を出版します。もちろん僕はアマゾンで予約をいれていますよ。長くソフトバンクに勤務された経験を持つ、ITと人材育成の専門家の方です。8月4日小社の会議室で、出版記念セミナーを開催します。
詳細は大木さんのブログをご覧ください。
「走れ!プロジェクトマネージャー!」

大木さんのお話、僕は楽しみにしています。

『神話の力』(ジョーゼフ・キャンベル、ビル・モイヤーズ著)

 神話学者のジョーゼフ・キャンベルに、ジャーナリストでキャンベルの熱烈な読者でもあるビル・モイヤーズが行ったインタビューを一冊の本にしたもの。現在まだ読書の途中ですが、非常にすばらしい本です。資本主義が大きな曲がり角を迎え、自然・環境との共生、生物多様性を根本から考えないといけない地点に人類がたつなか、考えるヒントが詰まった一冊と思います。

 「科学が信仰を大掃除」(ソール・ベロー)してしまっても、人類は新しい神話を必要としていること、その新しい神話は、地球という惑星とその上のあらゆる人間について語ったものであるだろうこと。しかし、その神話は、これまでのすべての神話とまったく同じように、「個人の成長ー依存から脱して、成人になり、成熟の域を通って出口に達する。そしてこの社会との関わり方、またこの社会の自然界や宇宙との関わり方」を、新しい神話も語らなくてはならないこと。ただ、一つ違いがあるとすると、新しい神話が語る社会は、この惑星全体の社会でなくてはならないこと。

 第一章の終わりに、これまで僕が読んだ中でもっとも美しい手紙のひとつと言える手紙が紹介されています。それは、1852年頃、先住民部族であるインディアン部族の首長であるチーフ・シアトルに、合衆国政府が土地購入の話を持ちかけた時の返答です。

 「ワシントンの大統領は土地を買いたいという言葉を送ってきた。しかし、あなたはどうして空を売ったり買ったりできるだろう。あるいは土地を。その考えはわれわれにとって奇妙なものだ。もしわれわれが大気の新鮮さを持たないからといって、あるいは水のきらめきを持たないからといって、それを金で買えるものだろうか?この大地のどの一部分も私の部族にとっては神聖なものだ。きらきら光る松葉のどの一本も、どの砂浜も、暗い森のどの霧も、どの牧草地も、羽音をうならせているどの虫も。あらゆるものが私の部族の思い出と経験のなかでは尊いものだ。われわれは血管に血が流れているのを知っているように、木々のなかに樹液が流れているのを知っている。われわれは大地の一部であり、大地はわれわれの一部だ。香り高い花々はわれわれの姉妹だ。クマ、シカ、偉大なワシ、彼らはわれわれの兄弟だ。岩山の頂き、草原の露、ポニーの体温、そして人間、みな同じ家族なのだ。」

 「われわれが自分の土地を売るとしても、大気はわれわれにとって貴重なものであることを、大気はそれが支えるあらゆる生命とその霊を共有していることを、忘れないでほしい。」

 「あなたがたは、われわれが自分の子供たちに教えたのと同じことを、あなたがたの子供たちに教えるだろうか。大地がわれわれの母だということを?大地に降りかかることは大地の息子たちみんなに降りかかることを。」

 「われわれはこのことを知っている。大地は人間のものではなく、人間が大地のものだということを。あらゆる物事は、われわれすべてを結びつけている血と同じように、つながりあっている。人間は生命を自分で織ったわけではない。人間はそのなかでただ一本のより糸であるにすぎない。」

 「最後のひとりになったレッドマン(インディアンのこと)が未開の原野といっしょにこの世から消え去り、彼の思い出といえば、大平原を渡る雲の影だけになってしまったとき、これらの海岸や森林はまだここにあるだろうか。私の部族の霊が少しでもここに残っているだろうか。」

 「われわれが土地の一部であるように、あなたがたも土地の一部なのだ。大地はわれわれにとって貴重なものだ。それはまたあなたがたのためにも大事なものだ。われわれはひとつのことを知っている。神はひとりしかいない。どんな人間も、レッドマンであろうとホワイトマンであろうと、おたがたいに切り離すことはできない。なんといっても、われわれはみな確かに兄弟なのだ」

 冒頭から最後の一節まで、一部略しながらご紹介してしまいました。この手紙を読んでいて、チーフ・シアトルの偉大な思想に心を揺さぶられました。そして資本主義や物質主義が行き詰まった時、彼の思想が何世紀かのときをへて蘇る日がきっと来るだろうという予感がします。

『落葉隻語_ことばのかたみ』(多田富雄著)

昨日に引き続く多田富雄先生のご著書。あとがきは今年2月、そして4月にお亡くなりになられました。
母校の千葉大学で最後のご講演となった(はずの)「若き研究者へのメッセージ_教えられたこと、伝えたいこと」を読むだけでもこの本の価値があるかと思います。この講演の中で、多田先生は、恩師のひとりである石坂公成教授から教えられたこととして、以下のようなことをあげています。
1競争の激しい一流の主題に取り組みなさい。それは万人にとって大切なことだから人が集まる。それを避けて競争の少ない主題に逃げると、一生、落穂ひろいのような研究しかできない。
2実験をやるときは、必ずうまくいくと思ってやれ。どうなるかわからないと自分があやふやに思っていてはうまくいくはずがない。
3どうしてもだめだと思ったときには、一度実験を止め、撤退する勇気を持つこと。これが一番難しい。
多田先生は、これらを、恩師から教えられた「研究者の三つの勇気」だとされています。
ビジネスにもかなり当てはまる「三つの勇気」ではないかと思います。
能にも造詣が深かった多田先生には、白洲正子さんと共著の『花供養』という本があります。次はこの本を読んでみようと思っています。

『残夢整理_昭和の青春』(多田富雄著)

岐阜県の郡上高校訪問の帰りの新幹線の中で読み終えました。免疫学者、多田先生の最後のご著書。今年4月、ガンのためにお亡くなりましたが、それまでのほぼ10年間、脳梗塞のため声を失い右半身付随のまま、不屈の魂で執筆活動をされていました。一般向けに書かれたエッセイ等を愛読してきました。
最後のご著書となったこの『残夢整理』は、旧制中学の同級生のN君、画家・永井俊作、従兄弟・篠崎裕彦、千葉大学医学部での恩師である岡林先生、能楽師・橋岡久馬たちの思い出を綴った6つのエッセイです。彼らの思い出を語ることで、著者は自身の青春をたどっていきます。「彼らを思い出すことは、彼らを復活させることにもなります。それも限りなくやさしいやり方で」(著者から編集者への手紙)
恩師・岡林先生のお話を特におもしろく読ませていただきました。