本づくりの大変さ。

今月の「私の履歴書」(日経新聞)は哲学者の木田元さん。あと数日で終わってしまうけど、今朝の回ではこれまでお世話になった編集者の方たちへのお礼の気持ちを表されている。僕の好きなみすず書房(小尾俊人さん!)、そのほか青土社、平凡社などの担当編集者のお名前がでてくる。

木田先生の「ひどく汚い原稿」を、徹夜で清書しなおして印刷に回す編集者の心配り。表にでてくるのは、スターの名前だけど、実は裏方さんたちの支えがあって作家(それは音楽家だって、スポーツ選手だってそうだろうし、会社経営における社長の立場もそうです)は仕事を進めていくことができる。

僕らの会社も、文字通り細々とですが、翻訳出版事業を行っていて、年に2冊程度、自転車や経営に関する書籍を出しています。本の選定の一番楽しい部分は僕がやらせてもらっていますが、そのあとの販売に至るまでの仕事は、一人の専任社員が汗をかいています。翻訳者の仕事もそうですが、本づくりと本の販売ほど、単純にカネのことを考えると、割に合わない仕事もないかもしれないです。

それでもやっていきたいと思うのは、魅力もあるから。

ネットと本は違う。Digital Native (生まれた時からのネット世代)もいいけど、本を買う、本を読む、本を持ち歩く、そんな楽しさを知らないなんて、ものすごい損をしていると思うけどな。

アメリカン・ブック&シネマ

『遺し書き_仲代達矢自伝』(仲代達矢著)

 今年7月にでた中公文庫からの一冊です。
2年ほど前にも黒犬通信で書いたことがある仲代達矢の自伝です。(→バックナンバー

 日本を代表する俳優の一人。彼が奥さん(元女優の宮崎恭子)といっしょに作った無名塾もすばらしいと思います。この本を読んで演技とは別のところでも彼のファンになりました。先に逝ってしまった奥さんの存在の大きかったこと!

『奇縁まんだら』(瀬戸内寂聴著、横尾忠則画)

 日経新聞日曜日版に連載されいている傑作エッセイ集、第一弾。今日はどこにもでないで、犬たちと遊びながらこの本を読んで過ごした。(夜は、レイソル対ジェフの千葉ダービーをテレビで観戦)
 
 作家たちの付き合いの内幕、作家たちの個性の一部を伺うことができる。この巻で取り上げられている作家たちは、島崎藤村、間正宗白鳥、川端康成、三島由紀夫、谷崎潤一郎、佐藤春夫、舟橋聖一、丹羽文雄、稲垣足穂、宇野千代、今東光、松本清張、河盛好蔵、里見弴、荒畑寒村、岡本太郎、檀一雄、平林たい子、平野謙、遠藤周作、そして水上勉。豪華絢爛!
 このエッセイだけとりあげると、瀬戸内寂聴は文壇レポーターかと、思えてくる。内容は滅茶苦茶おもしろい。そして横尾忠則の絵がいいのだ!
 続編を読むのも楽しみ。

『経営の才覚』(原著名:Knack)著者の紹介

株式会社アメリカン・ブック&シネマの出版作品のひとつ、『経営の才覚』。著者のひとりであるノーム・ブロドスキーは、起業家向け雑誌として有名なInc. 誌でコーナーを持っています。アメリカでももっとも有名な起業家アドバイザーです。ご参考までに。
株式会社アメリカン・ブック&シネマ「経営の才覚」
Inc. 誌上のノーム・ブロドスキーのコーナー

『問題は、ビジネスセンスを磨くことだ!』(吉越浩一郎著)

 副題に「資格とスキルに頼るな!」とあって、ちっと気になって読んでみましたが、合理主義者(であると、著者のことを想像しています。お会いしたことがありませんが)らしい、またいい意味での常識人である、結果を残された経営者のお話です。(著者はトリンプインターナショナルの、それこそ、「伝説的な」経営者。2006年に退任)

 資格に関しては以下のようなことを述べられています。

・日本のビジネス社会で案外役に立つのが「資格」です。

・「資格」は、転職先に自分を売り込むときにも、有利に働きます。

・社内においても、資格を持っていることが昇進の際に有利に働くことはありうることです。

・世の中には疑問符の付く資格もありますが、TOEICなど、自分の知識レベルの証明になるようなものは活用してみてはどうでしょうか。

・職務経歴書に書ける専門性を身につけにくい日本のビジネス社会では、資格は自分のチャンスを広げていく上でかなり有効です。

・ないよりはあったほうが得をすることが多いですから、知識のベンチマークのつもりで、資格取得を目指してみるのも一つの方法だと思います。

 お会いする機会があれば、小社で行っている資格についてもご紹介させていただきたく存じます。

『いま戦争と平和を語る』(半藤一利著、井上亮編)

 1961年生まれで、『「東京裁判」を読む』を半藤一利、保坂正康と共著した日経新聞の記者が、1930年生まれで昭和史をライフワークとする著作家・半藤一利に質問するインタビューをまとめたもの。
 この本で半藤一利が語る日露戦争から太平洋戦争にいたるまでのリーダーたちの話を読んでいると、本当に暗い気持ちになってきます。どうしてこれだけ愚かで無責任な軍人や政治家たちが日本のトップに立っていたのか、と。それは日露戦争の勝利が危ういものだったという事実を覆い隠し、自らが作りだした「神話」と「ウソ」にのめり込んでいき、リアリズムから遠ざかっていったプロセスでもありました。

 それが過去の事だけではなく、もしかして、それは現在も進行中なのではないかと思うと、さらにぞっとしてくるのです。

 各章のはじめに、半藤一利の発言の引用があるのですが、以下のような言葉があります。
 「戦後は戦争というものが日本人の意識からなくなっちゃった。あるのはただ悲惨とか悲劇であるとかそういうことばかりです。そこから来る平和というのは観念なんです。本当の平和論というのはそうじゃない。」(第10章平和主義こそ日本の基軸)
 「近代日本は外圧によって無理やり国をこじ開けられた。日本人は一度押しつぶしされて、はい上がって、この国家を作ってきたんだという思いがあるみたいですね。そういう思いから脱却しているのは、漱石や荷風などごく少数でした。」(第8章作家たちの歴史観)

 すべての章において共感する指摘を見いだしましたし、原爆投下(6日、9日)、ポツダム宣言受諾による終戦(15日)の8月に読んでおく価値のある本でした。本の帯にあるように、「大切なのはリアリズムと常識。歴史を知ることは日本人を知ること。」まったく同感です。

『日本人へ_国家と歴史篇』(塩野七生著)

 雑誌「文藝春秋」に連載された巻頭エッセイ43本を集めたもの。
この中に、「拝啓 小沢一郎様」という昨年の衆議院選前に書かれた文章があります。この文章は、現在の政治状況を見通したもので非常に正確な予測になっています。安定した政権を確保しない限り大胆な改革ができないだろうこと、民主党と自民党の大連立が必要だろうこと(両党から一部党員が脱落することを想定)、そしてそれを実現できるのは小沢一郎しかいないだろうことを言っています。
 来月の民主党党首選びがどうなるのか、興味をもって見ていきたいです。

アメリカン・ブック&シネマの新刊「ツール・ド・ランス」9月発売予定

 アメリカン・ブック&シネマ(ABC)の最新刊ですが、来月にはいって『ツール・ド・ランス』を発行します。今年のツールドフランス期間中の発行は間に合いませんでしたが、商品の価値にはいっこうに影響はありませんので、ご安心してお買い求めください。著者はビル・ストリックランド。以前、ABCで出しました『ツールドフランス_勝利の礎』の著者でもあります。アマゾンで予約受付を開始しています。

アマゾン予約ページ

 表紙の写真とデザイン、かっこいいでしょう?!ABCの本の装丁は、会社のロゴも制作してくれた10inc. の柿木原さんに引き続きお願いしています。
 ところでABCのブログですが、担当のSという社員が書いています。彼も、僕同様、もうすこしスリムになる必要性があるようで、週末には自転車に乗っているみたいです。

アメリカン・ブック&シネマ

茨木のり子回顧展

 昨夜の朝日新聞夕刊に、詩人茨木のり子初の回顧展が開かれているという記事。群馬県高崎市の県立土屋文系記念文学館で、9月20日まで。ぜひ行ってみようと思う。
 死後発見された挽歌40編のなかから。
「ふわりとした重み/からだのあちらこちらに/刻されるあなたのしるし/ゆっくりと/新婚の日々よりも焦らずに/おだやかに/執拗に/わたくしの全身を浸してくる/この世ならぬ充足感/のびのびとからだをひらいて/受け入れて/じぶんの声にふと目覚める」
 同じ詩人は、こんな言葉でも知られている。
「自分の感受性くらい/自分で守れ/ばかものよ」
茨木のり子展

『水と緑と土_伝統を捨てた社会の行方:改版』(富山和子著、中公新書)

 全国のお取引先を訪問するようになって、改めて日本の歴史と自然に興味を持つようになりました。人を大切にすることは、歴史と自然を大切にすることでもあると思います。ちょっと大げさに言うと、「人、自然、歴史」、それがこのごろの僕のテーマです。
 『水と緑と土』は1974年に出された本ですが、取り上げられているテーマはいっさい古びていません。この本を読みながら、いろいろなことを思い起こしました。その1:僕が育った田舎の家の裏には、近くの湾に流れる川が流れていて、保育園や小学校低学年のころにはこの川でよく泳いだ記憶がありますが、洪水を防ぐためでしょうか、護岸工事が行われ、家庭の汚水が流される汚い川に変わっていきました。(今、どうなっているのか?)その2:この前、岐阜の郡上八幡にある高校を訪問した時の校長先生との会話。当地はかつて林業で栄えたはずですが、今は山を管理する人も少なくなり、山は荒れ放題だということ。でも林業では食っていけないので、都会に若い人は出て行く。
 この本を読んでみて、川と山、森はつながっていて、日本の自然も「複雑系」のひとつであることをあらためて認識しました。また、作者の八ツ場ダム工事への考えを聞いてみたいと思います。
 新書ですが、中身は濃い内容です。至る所にマーカーを引きまくりました。そんなマーカーを引いた一節に以下のような文章があります。
 「伝統を切り捨てることは、明治新政府の国策であった。この乱暴な政策こそ、富国強兵・殖産興業への近道であった。そしてこの国策を背景に日本の科学が出発したことは、日本人にとって不幸なことであった。というのはそれが、自然を商品化し掠奪していく資本の強力な武器となったからである。自然から自己につごうのよいものだけを引き出し、単純化して扱うというその目的、方法において、両者は合致したのである。」
 この本は1974年に初版が発行され、今年7月に改版が発行されました。本の帯には、「環境論のバイブル」とありますが、読み応えのある本です。今年の夏読んだ本の中でもおススメです。