重視していないのは株主だけか?

ハーバードビジネススクールでは僕のひとつ上の学年で、現在はHBSリサーチセンター所属の江川雅子さんが、「株主を重視しない経営―株式市場の歪みが生み出した日本型ガバナンス (日本経済新聞社刊)を先日出されました。近いうちに拝読しようと思っています。

 海外の投資家からの圧力に対して、日本の経営者の多くが強い反発や抵抗をしめしています。僕が思うのは、それではこれら日本の経営者たちは、株主を重視しなかったとして、社員や取引先、あるいは環境問題や社会的な企業責任を本当に重視しているのだろうか?ということです。

 バブル崩壊後の多くの日本企業は、それまでのように社員(特に社員教育)を大切にしていないのではないか?取引先、特に下請け企業に対する姿勢は公正なのか?環境問題は本気になって対応しているのか?(いたるところにある偽装!)

 依然として、多くの上場企業においては、株主を重視していないだけでなく、社員をはじめとする他の関係者も重視していない企業が多いのではないだろうか、という疑問があります。80年代のアメリカでは上場企業の敵対的M&Aが増えました。敵対的M&Aにはさまざまな見方がありますが、M&Aそのものには、経営に創造的な刺激をもたらし、新しい変化を生み出すプラスの面が大きいのではないかと思っています。アメリカにおけるM&Aが生み出した価値(市場価値の増大)は、それまで企業内に隠されていた非効率を大きく上回るものである、という学術的な研究結果も発表されています。日本でもそのような調査結果が、もっと知られ、積極的な議論がされてもいいのではないかと思います。

 

地方分権の難しさ

ある中央官庁の方とITを含めた経済、経営のことをお話していてでてきた話題。それは地方における経営を担える人材枯渇の問題。地方分権や地方への権限委譲をするにも、その受け皿になる人材が地方にいないということ。そして現在、地方において政治や行政を行なっている人たちに任せてしまうと、これまで以上に利権化と腐敗がひどくなるのではないかという畏れ。

 このテーマは正面から切り出せない、ある意味タブーになってしまっているテーマかもしれません。いつの時代も、どこの組織でも、つまるところ問題になるのは、人材のこと。

アメリカ経済との「カップリング」

株式市場が世界的に大きく揺れ動いています。日経平均も昨日は1万3千円を割り込み、2年3ヶ月前の水準まで落ちています。結局、小泉さんの構造改革への期待からあがった日本株も、安倍さん、福田さんによって、すべて帳消しとなってしまいました。 

 ある証券会社のレポートを読んでいたら、2007年の為替市場を一言で表現すると、「歴史的な米ドル相場の底割れ、暴落が相次いだ年」であったとしています。さらに、2007年の米ドルは、欧州通貨や資源国通貨に対して、「現役で活躍している為替ディーラーが、ほとんど誰も経験したことのないような水準までドル安が進行した」とあります。

 日本国内だけを見ていると、歴史的な経済変動を直接感じることは難しいように思います。ポイントは、アメリカ経済と、ヨーロッパ、アジア、その他新興国の経済が、どれだけ相関関係があるのか(アメリカが不況になると、その影響で世界経済も不況になるのかどうか)、昨今はやりの言葉でいうと、アメリカ経済と世界経済全般が、カプリングされているのか、それともデカプリングされているのか。

 先週会ったシンガポール在住の日本人ファンドマネージャーは、シンガポールは絶好調で、サブプライムの影響などまったく感じないということでした。でも、僕はアメリカ不況の影響は、これからアジアにも波及するのではないか、まだまだ世界経済は、アメリカとカプリングの状況にあるのではないかと思っています。

 

 

韓国では大学生の半分が職にあぶれる

モノの値上げが続いています。昨年来の傾向ですが、昨日は、時々買う弁当の値段が10円上がっていることに気づきました。今朝の朝日新聞朝刊一面には、日清製粉グループが、業務用のパスタを40%値上げするという記事がでています。マックやスタバは昨年からすでに値上げデフレはもう過去のもの。不況下のインフレ(=スタグフレーション)の時代が近づきつつあるのかなという気もします。高価な商品の売れ行きは下がったとしてもどうでもいいのですが、生活に必要な基礎的な商品は、あまり値上げして欲しくないです。

 今年もまだ就職市場の活況は続くように見えます。新卒を採らない弊害を企業は理解したことと、団塊世代の穴埋めのために新卒採用は続くでしょうが、大学生諸君は、あまり油断しないほうがいいと思いますよ。

 隣の韓国は大学生の半分が職にありつけないそうです。英語とITの資格は必須で、すこしでも差別化できるように励んでいるそうです。日本の大学はこれから急速に変っていくでしょうが、学生たちを「お客さん扱い」するだけでなく、社会で将来活躍できるような人材としての心構え、スタミナ(精神的なものも含めて)、そして学力をしっかり学生に身に付けさせるようにしていただきたいです。

 

地方にコールセンターを持っていく効果

サイボウズ(青野社長)が、創業の地である松山市に、コールセンターをおかれるという記事を拝見。小規模とはいえ(当初は6名)、地元への「恩返し」として素晴らしいと思いました。

 通信コストの圧倒的な低下の結果、本来であればさまざまなビジネスが地方に移転したり、地方から起こってきたりしていいはずなのに、現実に起こっていることは東京と名古屋の一人勝ちです。これで関東大震災が起こったら、完全に日本沈没になってしまうのですが・・・霞ヶ関界隈もビルをどんどんと立て直していますので、かつて言われた首都移転も構造改革同様、遠い昔の議論になってしまっています。

 地方に作られてきたコールセンターから、将来、新しい会社、新しいサービスが生まれてこないものでしょうか?東京の会社は地方自治体の要請などもあって、地方にコールセンターを持っていきましたが、その中から、またその周辺から、新しいビジネスが生まれてくれば、素晴らしいことだと思います。

総理大臣に日経平均のストックオプションを与えよ

日経平均がどんどんと下がり、改革の機運が過去のものとなっている日本に見切りをつけていく海外投資家が増えています。今の政治家に最も求められる感覚はビジネス感覚ではないでしょうか。 

 嫉妬社会の日本では「暴言」となるのですが、僕は常々、日本国総理大臣に日経平均に連動した業績ボーナスを出せばいいのにと考えています。特定の業界からの献金や金集めをさせないために、また政策担当者にもっと市場に対する理解をもってもらうために、総理をはじめ、財務大臣や経済産業省の大臣の待遇が、日経平均株価に連動していると彼らはもっともっと現実の経済の動きに敏感になり、結果として日本国全体の利益につながるのではないかと思います。

 ボーナス、それも1年で10億、20億のボーナスを払ってあげても、日経平均が1万円上がれば、日本の国富は何十兆円、何百兆円と増えます。福田さんがやるべきことをやってくれるのであれば、10億円のボーナスなんて安いもので、われわれ国民全体の福祉と利益を考えると、有り余るほどメリットがあると思います。

 これは「暴論」なので、マスコミをはじめ、政治家はただで国民のために働けという方には、まったく理解してもらえない意見でしょう。実現の可能性はゼロだとわかっています。ただ、政治家は聖人君主ではないし、生きた経済の話しは、ビジネス感覚がない政治家や官僚には、わかってもらえないと思います。清貧の思想はある意味ロマンチックだけど、富の源泉をしっかり持ち、効率的なお金の使い方があってはじめて、年金を始めとする僕らの問題は解決できるはずです。

 ピーター・ドラッカーは偉かった。マネジメントは企業だけの話しではなく、国家レベル、地方自治体でもビジネスがわかりマネジメントができるヒトたちに上に立っていただきたいです。

ドル・英語・インターネット

「米中経済同盟を知らない日本人」(山崎養世著)の中で、キーワードとして何度もでてくるのが、この「ドル・英語・インターネット」。ドラッカーはかつて米・英・日・独が「マネジメント」を知っていると言ったそうだけど、今では「マネジメント」はこの4カ国の専売特許ではなく、多くの新興国がマスターしつつある。どこの国にも優秀な人たちはたくさんいて、これまで戦争やら内乱やら、あるいは専制政治のもと、それら優秀な人たちがチカラを発揮できなかっただけだと思う。1945年からこれまで戦争にも巻き込まれることなく、もちろんのこと内乱もなく、アメリカの庇護のもと、金儲けにだけ集中することができた日本のなんとラッキーだったことか。

 英語とインターネットを身につけた新興国の優秀な人材たちは、どんどんと「マネジメント」能力を身に付け、日本をはじめとする先進国に追いつき、追い越そうとしている。

グリーンスパンの「私の履歴書」

今月の日経「私の履歴書」は、前FRB議長のアラン・グリーンスパン。世界の金融界で最高の「権力」を持っていた人。その彼が最も影響を受けた人の一人が、リバタリアンのアイン・ランド。今日第8回目のお話では、アイン・ランドからグリーンスパンがなにを学んだかが紹介されています。

 グリーンスパンのような「エスタブリッシュメント」の一員が、「個人の自由を尊重し、国家の介入を厭う、今ではリバタリニズムと呼ばれる考え方が私の価値観となった」と明言すること、そんなところがアメリカの魅力の一つだと思う。彼も書いているように、アメリカは、「米国市民の財産権を守るのと同じように外国人の財産権も守る。だからこそこの国に多くの資本をひきつけている。」

 これまで日本は開かれた国になる気がまったくなく、それでやっていけたけど、これからはきっとこのままでは存在できなくなるでしょう。アイン・ランドのように自由の思想を吹き込む思想家が日本には必要ないのでしょうか?以前彼女について書いたページはこちら。→黒犬通信(2006年8月1日)

神経経済学-日経新聞「経済教室」から

12月26日の日経新聞「経済教室」で、フランス・ヴァン・ヴィンデン(アムステルダム大学教授)という方が、神経経済学という行動経済学の新しい分野について簡単な紹介文章を書かれていました。人間の決断や選択に、感情に関係した脳の領域が関係していることに注目して、人間の非合理的な経済行動を解明しようとする学問領域だそうです。

 新聞で紹介された短い文章では詳細を知るには限界がありますが、いくつかおもしろいコメントがありました。たとえば、以下のような文章です。

-現在私が取り組んでいる最も重要だと思う研究は、社会的きずな(人間と人間の結び付き)をテーマとした研究だ。

-我々の立場でいえば、社会的なきずなとは、相互作用を通じて人々がほとんど無意識に投資したストック変数であるとみなすことができる。

-社会的なきずながあるからこそ人間の選好が内生的になり、社会的な結束は外部からの影響に打ちかつ手段になりうると推測できる。そうだとすれば、例えば労働市場の流動性の増大は、感情で結ばれた社会的なネットワークを断ち切りかねないという意味で、幸福に影響をおよぼす可能性がある。

 社会的なきずな、インターネットにおけるコミュニティ、日本企業と社員の関係。関連しあう、おもしろいテーマだと思います。

マイケル・ジャンセン

定期的に読んでいるブログ(「池田信夫blog」)で、ハーバード・ビジネス・スクールのマイケル・ジャンセン名誉教授の名前を見ました。(→こちら) 僕がハーバード・ビジネス・スクール在籍中の85-87年には、他の大学から移籍されてきたばかりで、授業を取ることもありませんでしたが、その頃の僕は、この先生がテーマにしている今のはやりの言葉で言うところの、コーポレート・ガバナンスとファイナンスの問題について、あまり関心を持っていませんでした。

 実はこの先生が書かれてきたテーマこそ、今の日本で読まれるべきなのではないかと強く思います。企業は誰のものか、企業経営者の責任、企業価値の最大化など。ところがアマゾンでチェックすると、先生の論文は日本語にはまったく翻訳されていません。Theory of the Firm: Governance, Residual Claims, and Organizational Formsなど、どこかの出版社で翻訳して出してくれないものでしょうか?