リーマンブラザーズの破産法申請に思う(その2)

 今日は大阪に日帰り出張で、途中、まったくネットにアクセスすることもなかったので、昨日書いた「リーマンブラザーズの破産法申請に思う」に普段の3倍くらいのアクセスがあったことを自宅でみて、ちょっと驚きました。おかしかったのは、「リーマンブラザーズX年収」とか、「リーマンブラザーズX給料」というキーワードで検索された方がたくさんいること。人気商売の外資系金融の給与水準に関心がある人が、多いのでしょうか。

 日本ではそれほど目立ちませんが、証券会社同様、あるいはそれ以上に、給料がいいのが、KKRとかBlackstone に代表される、プライベートエクイティという投資ファンドです。日本はそれほど、売り案件が多くないので、新生銀行(元長銀)とか、東京スター銀行(元東京相互銀行でしたっけ?)など、数えるほどしか大きな案件はありませんが、アメリカでは、バンバン、会社の売り買い、上場企業の非上場化と新たな上場などが行われています。(いや、行われてきました、と過去形にすべきでしょう)
 僕は決して、プライベートエクイティの存在を、「ハゲタカファンド」などと言って、すべて、悪者だとは思っていません。逆に、今の日本の上場企業の動き(例えば、株の持ち合いの復活)を見ていると、もっともっと、アメリカ的な資本主義の実践が必要なのではないかと思っています。
 でも、リーマンは破産、メリルはバンカメに身売りなんてなると、「だからアメリカの金融なんて、マネーゲームばかりでダメだ」という議論が、日本では強くなり、結局、これまでのなれ合いや隠蔽体質を変えようとしない結果につながっていくのではないかと、ちょっと心配しています。

 (法律違反さえしなければ)へまをしてもクビになる程度で、個人責任を問われることなんてないのに、成功したときに得られる、べらぼうなボーナスを別にすれば(この一方的なリスク・リターンの関係から、いわゆる「モラルハザード」というような態度が出てくるわけですが)、リーマンをはじめとする証券会社が、実物経済をダイナミックに再構築していくために果たして来た役割には、たいへん大きなものがあります(もちろん、失敗もたくさんあるでしょう)。でも、日本では、日本がもっとも必要としているリストラやM&Aにしても、さまざまな理由でまだまだ活発には行われていないのが、残念です。
 大阪から羽田空港に着いたとき、バンカーズトラストで同じグループにいた、リーマンの日本代表の桂木さんがテレビ画面にでていたので、ちょっと足を止めて見ました。声は聞こえませんでしたが、これからしばらくは、関係者の方々も、たいへんな日々が続くのではないかと思います。
 次は、日本でも大きな存在を持っているAIG(保険グループ)が、市場の関心になっています。どこの段階で、アメリカ政府が踏み込んだ救済に入るのか、あるいは入らざるをえないのか。フィナンシャルタイムでも読みながら、社会勉強させてもらいます。
 

  

リーマンブラザーズの破産法申請に思う

 リーマンブラザーズ証券が破産法申請をしました。海外の銀行からうまく金を引き出すのかと思いましたが、結局、アメリカ政府が公的資金を出さないということで、誰も「ババを引こう」とはしませんでした。(日本政府は、かつて、日本長期信用銀行の買い手探しの際、公的資金を差し出すことで、ようやくアメリカのプライベートエクイティの金を引き出しました。そのとき、金を出した連中は、大もうけをし、アメリカからのファンド進出の先駆けとなりました。)
 もう過去のことなので、記憶している人はすくないかもしれませんが、ライブドアがフジテレビを買収しようとしたときに、資金調達を手伝ったのが、リーマンブラザーズの東京オフィスでした。バンカーズ・トラストで働いていた頃の同僚が、あの案件を進めていましたが、一段落した頃、別のグループにいる元同僚の話では、ライブドア案件のせいで、一部大手日本企業からひんしゅくをかったというようなことを聞きました。
 リーマンブラザーズという会社は、日本とは、過去においても関わりがあります。現在在籍している社員には、まったく興味がないことでしょうが、日露戦争の時、日本政府の資金調達を助け、日本がロシアとの戦争に勝つことを、金融面からサポートしました。リーマンはもともとユダヤ資本で、ロシア国内でユダヤ人が迫害されていることから、日本を支援しようとしたと言われています。でも、現在のリーマンブラザーズと、この頃のリーマンブラザーズに、会社として、あるいは経営として、どれだけの継続性があるのか。単なる歴史的な出来事の一つということでしょうか。

 リーマンブラザーズだけではありませんが、アメリカの証券会社はあまりにもやり過ぎですよね。住宅バブルで儲け、僕らの感覚からすると、メチャクチャの金をとっています。日本の証券界社のトップの人たちがどれだけの年収があるのか知りませんが、2年前、ゴールドマンのトップは、ボーナスだけで60億円を越える金をとっていました。一般社員も含めた平均年収が、数千万円なんていう、信じられないような話です。(→黒犬通信バックナンバー
 僕自身、金融の世界で働いていましたが、残念ながら、こんなおいしい話はまったくありませんでした。率直に言うと、日本法人の人たちも含めて、リーマンや今年前半に倒産したベアスターンズなどで働いていた人たちには、「みんな、いい給料もらっていたんだから、それなりのリスクは覚悟しているよね。」という風に思っています。が、金融は虚業だからどうでもいい、というほどには世の中、割り切れず、日々、こつこつと働いている製造業、サービス業にも、これから急激に影響がでてくるのではないか、それを心配しています。

本のない世界

 きのう来社した知人から聞いた話です。全国的に有名なある書店では、今年夏のボーナスはなかったそうです。よく行く書店で働く人たちのことが、頭に浮かびました。
書店は、万引きと立ち読みが、大きく足を引っ張っています。ただでさえ売り上げは伸びず、利益率が低い商品なのに、万引きされては、利益なんて吹っ飛んでしまいます。
今朝の朝日新聞には、「月刊誌_冬の時代」という記事が大きく出ていました。雑誌の休刊は、これからも続くのではないかと思います。
確かに、読書には、時には苦労もありますし、あたりはずれもあるのですが、これだけ安上がりで、長く楽しむことができる、「読書という商品」は少ないと思います。その楽しさを世代から世代へと、つなげることがうまくできていないのでしょうか。
一部のベストセラー作家をのぞくと、ほとんどの作家たちは、生活の苦労が多いと聞きます。どんどん居場所がなくなっている動物たち同様、本も、パチンコやテレビ、インターネット、ケータイに、殺されていくのでしょうか?

秋田のS君が大切にしているキーワード

先週末、秋田で再会した同窓のS君が、「大切な原理原則だと思うのですが」と言って教えてくれた4つのキーワード。(キムイルゴン著『東アジアの経済発展と儒教文化』から)

 「生産における勤勉」
 「消費における倹約」
 「流通における誠実」
 「分配における共生」

エコノミストでも取り上げられた島耕作

知り合いの方から教えていただきました。島耕作が、イギリスの雑誌「エコノミスト」で紹介されています。現実の日本では、島耕作のような人物が大企業の社長になることは、ありえないはずだ、とされています。英語の勉強がてら、読んでみては?
"A Question of character: What Kosaku Shima, Japan’s most popular salaryman, says about Japanese business"

名ばかりのMBO

すかいらーくの創業家が、議決権の9割を握るファンド株主に解任されたという記事が出ています。これは当然のことではないかと思います。まず、MBOといいながら、2割近く持っていた持ち株を、MBOの過程で3%まで売却し、多額の売却益を得ていたという話には、呆れてしまいました。このことからして、「ルール違反」だと思います。本来、MBOとは、経営陣がリスクを取ってエクイティ投資し、ちょっと大げさに言うと、経営陣の根性に火をつけて、経営にあたるというのが前提。なのに、2割から3%に持ち株比率を減らしていたなんて、MBO本来のありかたの正反対です。

マスコミには、MBOとか、LBOなどのアメリカで過去30年ほどの間にすすんだ金融手法に批判的なトーンで記事を書く方が多いように思います。でも、MBOやLBOを通して、短期間で金儲けできるほど、アメリカも甘くはないです。すかいらーくのようなケースをしっかり勉強していただき、どのようなMBOが「善」なのか、MBOがなぜ「善」なのか、きっちりとしたリサーチや研究に基づいた話を、もっと広めていただきたいです。

以前、日本電産の永守社長が、自社株の値段が安いという経営者は多いが、有価証券報告書を見ると、たいした自社株を持っていない。本当に安いとは思っていない証拠だ。本当に思っているのであれば、経営者は自社株を(借金してでも)もっと買うべきだと、日経金融新聞に書かれていたことが記憶にあります。すかいらーくの創業者たちがやったことは、(いろいろとご事情はあったのかもしれませんが)、これとはまったく反対のことで、まさに名ばかりのMBOだと思います。

任天堂Wiiのしたたかな広告

Nintendo_wii

昨晩、大阪から東京に帰ってきて、有楽町駅構内で撮った任天堂の広告。
「Wii Fitを利用する50代男性の59.7%が配偶者と一緒に利用」というアンケート結果を広告にしたもの。40代男性の巻もあって、子供たちと一緒に利用しているというようなメッセージだったと記憶しています。
任天堂は、ゲームを一部のおたくやマニアのためではなく、すべての人に広げようとしていて、そのビジネス戦略にはまったく脱帽します。ゲームに熱中する子供たちが、食卓での会話をまったく行わないことが、親たちの心配のたねだとすると、Wiiが家族間の会話を作っていくというメッセージは、実にうまいなと思います。

Fuji Xeroxのロゴが変更されている

 富士ゼロックスのロゴが変更されていることに、新聞広告を見ていて気づきました。フォントのタイプが、なんとなく、NTTドコモのロゴタイプに似ているのでは?全体として受ける印象は、AT&Tにも似ているかな?同じ時代の流行をなんとなく、感じます。

 会社のHPを拝見すると、今年の4月1日に変更されています。

富士ゼロックス
at&t
ntt docomo

資源高は永遠には続かないけど

 昨日は、高崎にある専門学校のトップの方を訪問。昨今の学生事情をお聞きしましたが、「モンスターピアレンツ」の話にはあらためてあきれます(差し障りもあるから、具体例は書きませんが)。昨晩は、テレビでも、まさに「モンスターピアレンツ」という番組名のドラマが始まったとか。
 振り返ってみると、バブル経済まっさかりの1980年代後半から始まって、戦後の日本社会のモラルの空洞化や劣化は、この20年で、相当進んでしまったんだろうと思っています。心のありかた、家族関係だけを見れば、今の日本って、江戸時代なんかではなく、戦国時代の乱世だと思うんだけど。
 1970年代の狂乱インフレのことをまだ覚えているからかもしれませんが、石油をはじめとする資源の値上がりは永遠に続く訳ではないと、ある意味、腹が据わっているつもりです。自動車が乗れなくなれば、自転車に乗るからね!
 でも、モンスターピアレンツ、モンスターキッズの話みたいな、心の話はちょっと心配。「野村ノート」ではないけども、多くのことは、気持ちの持ち方、考え方、心のあり方から始まるものだから。
 「忙しい」という字は、「心を亡くす」ということを表しているけど、日本はカネ儲けだけで来たので、まさに心をなくしてしまたのかもしれない。(なんてことを書くようになると、僕自身、年をとった証拠かな?!)
 一度、アブダビとかドバイに行ってみたいと思っています。今の資源高に浮かれている中東マネーが、バブルのときの日本のように、どんな愚行を行っているのか、それとも賢く将来に備えて投資を行っているのか、自分の目で見てみたいです。

『ビジネスに「戦略」なんていらない」(平川克美著、洋泉社刊)

 実際に会社を経営されてきた「実務家」の書かれた本。論を深めるという点では、不満に思う読者も多いかもしれませんが、机上の空論とは違い、実体験から生まれた考えが書かれています。僕も共感する点が多い本です。

 友人に内田樹(神戸女学院大学教授、「私家版・ユダヤ文化論」で小林秀雄賞受賞)がいて、彼との対談もこの本には含まれています。内容は、大きな視点からビジネスをとらえ、人間の営みとしてのビジネスのおもしろさを説いています。ビジネスの始まりには、「交換」=コミュニケーションがあること、モノであれ言葉であれ、交換過程のはじめにあるのが「与える」ということ、それに対する返礼、反対給付が続いていくことがコミュニケーションの基本であること。さらに、ビジネスにおいて交換されるものはモノやサービスとお金であり、さらに、技術や誠意といったものが満足や信用といったものと交換されていること。その二重の交換が、ビジネスであることを熱心に説いています。
 大学生の頃読んだ文化人類学、経済人類学の本を思い出させてくれました。会社の経営者は、顧客や社員などの「ステークホールダー」と、商品やメッセージ(言葉)を通して対話を進めていかないといけないこと、対話そのものが実はビジネスの大きな目的であり、その中にいきがいや、やりがい、あるいは自己実現といったものが見つけられるのではないかと思いながら、本を閉じました。

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