ただのオプション

 今回のアメリカの金融危機に関していろいろな議論が出ています。資本主義の終焉だと言い出したり、懺悔本を出して印税を稼いでいる経済学者までいるわけですが、ボクは単純なので、根本の問題のひとつは、金融機関におけるボーナスの払い方にあると思っています。いくらかの修正はあったとしても、資本主義にとってかわる経済や会社の仕組みなんて、そう簡単には出てこないはずです。
 将来にわたって利益が実現されていく金融商品の製造、販売、あるいは売り買いにおいて、担当者は想定される利益の現在価値の何割かを、年末のボーナスとしてもらう仕組みになっています。ところが将来にわたって想定される利益は、大きく市場が変化する中で必ずしも確実なわけではありません。大きなリスクを持つ商品、別の言葉で言うと非常にギャンブル性の高い商品を作っても、一見、非常に大きな利益がでている時、金融機関はその担当者に大きなボーナスを払ってきました。ましてや、自分が作った非常にリスクが高い商品を無知蒙昧なる投資家に売り払ったあとは、知らぬ存ぜぬです。
 世界的に有名な金融機関がそんなバカなことをやっているはずないよね、なんて思うのは部外者だからで、実態は本当にずさんだったと言えます。
 個々人の社員には、実は「ただのオプション」(free option) が与えられているようなもので、会社のリスクと費用で大きな利益を上げた時にはその何割かをもらう、大きな損失を出したときには仕事を失うだけという、非常に一方的な関係がずっと成立していました。ボーナスは、現金で支払われます。ここで、ボーナスの支払いを現金ではなく、自分たちが作った商品で受け取るような仕組みにすれば、きっと金融機関に働く人間たちは商品の設計にもっと責任を持ったはずです。
 この前、大阪のクラブの女性が帰宅途中、350万円もの現金を奪われる事件がありました。水商売の人たちは、現金で給料やボーナスを取っていらっしゃるのかと思いますが、実はこの方たちのほうが、ある意味ではアメリカの金融機関の連中よりも、自分の仕事に責任をとっていらっしゃいます。ボクは夜のお仕事の詳細はよく知りませんが、お客さんがツケのお金を払わないときには担当のおねえさんたちは自腹でお店に支払いをしていると聞きます。ところが金融機関の連中は、会社にリスクを背負わせ、損をした場合にも、いっさい自腹で穴埋めをしたりはしません。
 この仕組みは別の言い方をすれば、「利益は資本主義、損失は社会主義」、あるいは「会社の利益は自分のもの、会社の損は会社のもの」という仕組みです。まさにモラルハザードです。こんなことを何年、何十年もやっている業界が、高給を取り続けること自体が犯罪的なことだと思います。メリルの前の社長は、自分の社長室を変えるのに億単位の金を使い、10万円のゴミ箱を使っていたという記事を読んだことがあります。今回のアメリカの金融危機で、1、2の例外をのぞけば逮捕された人間が出ていないことが不思議なくらいで、そんな業界が世界をリードしてきたことも、ふざけたことだと思っています。

 

「よい商品ほど広告をしなければならない。」

前佐賀市市長の木下敏之さんのメルマガに、含蓄ある言葉が紹介されていました。
「よい商品ほど広告をしなければならない。」松下幸之助の言葉だそうです。
メルマガ「夕張希望の杜の毎日」

『まぐれ』(ナシーム・ニコラス・タレブ著)

 原題は、"Fooled by Randomness_The Hidden Role of Chance in Life and in the Markets"。日本語の副タイトルには、「投資家はなぜ、運を実力と勘違いするのか」とあります。日本語の『まぐれ』というタイトルでいいのか、少々疑問です。ボクだったら『偶然』というタイトルにするかな。
 内容は金融における確率(あるいは偶然性)を取り上げているようで、本当のテーマは、理性と懐疑をもって生きることです。サブプライムで世界経済をメチャクチャにした金融界で働くすべての人たちは、この本を読んだ方がいいのではないかと思います。
 この著者のことは、2007年、ハーバードビジネススクールのリユニオン(同窓会)に参加した際、金融の先生が特別授業の中で紹介してくれました。この『まぐれ』に次ぐ最新作品である"The Black Swan"を非常に高く評価されていました。この最新作も、ダイヤモンド社から翻訳出版される予定のようですから、楽しみにしています。
 2度繰り返して読んでみようと思うビジネスの本はそれほどないのですが、この本は再度読んでみようと思っている一冊です。
 最後にもうひとつ。著者はあとがきで、「私たちは、目に見えるものや組み込まれたもの、個人的なもの、説明できるもの、そして手に取ってさわれるものが好きだ。私たちのいいところも悪いところも、みんな、そこから湧いて出ているように思う」と記しています。ボクたちの会社が扱っている「資格」というサービスは、形のない目には見えないもので、個人的なものでもあり社会の中で認知されるものでもあり、時にその不思議さを想うことがあります。

消費は感情に左右される(なじみのお店によると)

 昨日は久しぶりに洋服を買いに。毎年バーゲンセールのときに買い物をするのですが、今年は5割引と、例年以上に値引き販売をしています。このお店とは、おつきあいが長いので、どちらかというと顔なじみです。
 で、店長のお話によると、やっぱりリーマンショックのあとの数ヶ月、昨年の10月、11月頃が最悪で、1月に入ってようやく息をつくことができたそうです。小売りは、株が下がったりすると、大きな影響がでるそうで、感情や気分の揺れに左右されるとか。「30年以上この商売をやっているが、こんなに急激に落ち込むのは、初めての経験」と、おっしゃっていました。(小売りではありませんが、この前、オフィスのそばにある東京会館に、海外からのお客さんを連れて昼食に行った時、ここもリーマン倒産のあとから、2、3割、お客が減っているとお聞きしました。)
 景「気」というくらいだから、「気」分というか、感情が与える影響は、大きいということでしょうか。

『日本の優秀企業研究_企業経営の原点6つの条件』(新原浩朗著)

 優秀企業とそうでない企業を分ける一般法則は、所属する業界の差に関わりなく見られ、以下のような6つの共通点が見られる、とする研究結果を書籍にしたもの。
1 分からないことは分けること
2 自分の頭で考えて考えて考え抜くこと
3 客観的に眺め不合理な点を見つけられること
4 危機をもって企業のチャンスに転化すること
5 身の丈に合った成長をはかり、事業リスクを直視すること
6 世のため、人のためという自発性の企業文化を埋め込んでいること

 まとめて言えば、「自分たちが分かる事業を、愚直に、まじめに自分たちの頭で考え抜き、情熱をもって取り組む」こと。

 この本の中には、ボクが尊敬している企業、企業家が紹介されています。任天堂(山内前社長)、信越化学(金川千尋現社長)、ヤマト運輸(故小倉社長)、マブチモーター、ホンダ、トヨタ、シマノなどなど。任天堂の山内さんにとっても、最初の30年は苦労の連続だったこと(トランプや花札事業にかわる新規事業として、タクシー事業、インスタントライスの製造にトライした)が紹介されています。また、マブチモーターの製品標準化の話も、おもしろかったです。
 任天堂やマブチモーターは、Big Giants になっていますが、"Small Giants"たちと同じなにかを、共有していると思います。

伊那食品工業_日本のSmall Giants(スモールジャイアンツ)

 アメリカン・ブック&シネマの新刊本「Small Giants」。おかげさまで、日本経済新聞の書評欄でも取り上げていただきました(1月18日付)。この本の中で紹介されているのは、アメリカの企業ばかりですが、日本に、Small Giantsがないわけではありません。それどころか、たくさんあるはずです。

 で、そのような日本のSmall Giantsのひとつが、この伊那食品工業なのではないかと、ロイターのHPに掲載されていた、雑誌「プレジデント」の記事から思った次第です。しっかりした哲学をお持ちの社長に感心しました。事業の深堀、地元に根付いた経営などが印象的です。

(→伊那食品工業記事

「百年に一度の世界同時好況」

 「百年に一度の不況」という言葉がはやっていますが、マスコミ関係者や政治家の先生方が使われるときには、不況のシリアスさを本当に信じていらっしゃるのか、よくわかりません。心から、百年に一度の規模の不況であると考えていらっしゃるのであれば、いまのような行動(無策というのは、言い過ぎでしょうか?)でいいのか。
 先日、新年会で知人たちと話をしていて、実は2000年のITバブル崩壊から回復し、20007年末まで続いた世界同時の好況こそが「百年に一度の好況」であって、そのことの方が、実は世界史上でもまれな出来事だったのではないかという話になりました。日本に暮らすわれわれ庶民レベルには、決して、好況であったという感じはしないのですが、この時期、確かに東京の不動産は値上がりし、「シロガネーゼ」なんて言葉が雑誌を飾りました。(「シロガネーゼ」はどこに行ったのか?!)この期間、BRICsを始めとする途上国においても、景気のいい話が多かったように思います。もちろん、EU、アメリカにおいても、不動産は大幅に値上がりし、世界的なバブル景気でした。
 ポイントは、あの時期が当然だと考えているとまったく間違ってしまうのではないかということです。高い生活水準になれてしまい、単純に言うと、身の丈に合っていない贅沢が当然みたいに思い始めると、危ないな、って。
 トヨタは、1000万台の生産レベルから一気に700万台を基準にすえて、そのレベルでもきちんと黒字になる体制を整えようとしていると聞きました。さすがトヨタだなと思います。トヨタ銀行と言われるほど現預金を持っているトヨタですが、貯金を使い果たしてしまう前に、新しい体制の確立と、マクロ経済の回復があることを期待されていることでしょう。
 1930年代の不況の克服には、第2次世界大戦が必要だったというような、悪魔的な考え方があります。局地的には戦争が続いていますが、世界的な戦争を絶対に引き起こすことなく、国際政治のリーダーたちには、この不況を解決していって欲しいです。

百年に一度の不況?

 昨日、今日と、新年会に出席しましたが、いろいろな方から、「百年に一度の不況」という言葉をお聞きしました。そう言うことが、なんとなく、この頃の挨拶代わりになっているみたいに。不況だ、不況だと言って、最初から今年もダメだというような「空気」を受け入れるのは反対。メチャクチャな借金を抱え、さらに追加の借金を背負おうとしているアメリカの方が、ずっと楽観的で、きっと不況からの回復は早いのではないかと予想しています。
 1月から、白旗をあげるなんて、最悪。

An hour with Bill Gates

 ビル・ゲイツのことを好きな人、嫌いな人、尊敬している人、さまざまでしょうが、このインタビューを観ていて、ボクは好感を持ちます。それはボク自身がこの10年ほど、マイクロソフトと仕事をさせてもらい、そのことに感謝しているということもあると思いますが、決して、それだけではありません。知的好奇心の塊であり、科学やテクノロジーへの強烈な関心、勉強家であり続ける姿勢は立派だと思っています。
すべて英語ですが、ぜひご覧ください。
インタビュー("An hour with Bill Gates")

自動車産業の影響

 大阪の某放送局の社長がご来社。以前、東京の某局の役員をされていた頃からのおつきあい。で、大阪に関する印象をお聞きしたときに出てきた話題が、自動車産業の地域に与える影響度合い。
中部地域が5とすると、関東は3、そして関西は1。大阪には名古屋、東京ほど、自動車業界の不況の影響はないのではないかということでした。
 トヨタがダメになるときは、日本がダメになるときだよねと、ほんの今年の始めくらい前まで、大勢のひとたちが考えていたと思いますが、そのトヨタが苦境に立たされているという現実が目の前に突然、現れました。
 今日は、2007年、OECD加盟国内で、日本の名目GDPは19位まで後退してしまったという記事が、
ロイターにでています。G7の中の最下位だとか。頑張れ、ニッポン!