『累犯障害者』(山本譲司著、新潮文庫)

アマゾンでも圧倒的に高い評価をしている読者が多いようですが、とても中身のある本でした。
著者は国会議員時、秘書給与の流用事件受けた実刑判決に潔く服し、433日にわたる獄中での体験を『獄窓記』に表します。この本は2008年2月に読みました(→2008年2月3日)。
そのあと『続・獄窓記』、さらに『累犯障害者』とつづきます。

何億円も借りていたことが表に出たあとでも、しらばっくれている新党党首がいるかと思えば、著者のように(多くの国会議員が大なり小なりやっているであろう)議員秘書給与を流用したという「犯罪」を潔く認め、長く刑務所内で命の洗濯をおこない、出所後は素晴らしい仕事を続けている方がいることに、いろいろな「先生」がいるものだなと思います。著者の逮捕および実刑判決にはちょっと理不尽さも感じるのですが、その理不尽さにも潔く服し、また理不尽さに負ける事なく、ご自分がライフワークとされていた福祉の仕事に、国会議員在職中以上に全身全霊を傾けている姿に感動さえ覚えます。

東京・山谷で「ホスピス」をやっている山本さん(別の山本さん!)という方がいます。ポッドキャスティング(「アイデアエクスチェンジ」)にもでてもらったことがあります。ボクは毎年1、2回、山谷の山本さんの「きぼうのいえ」を訪問して、いろいろな話を聞いて帰ります。山谷というのはうちの会社のオフィスがある丸の内からクルマで20、30分程度の距離にあるところですが、かつて日雇い人夫の町として有名だったところで、ぶらぶら歩く年配の男性を通りで見かける事が多く、山本さんのホスピスにも、身よりもなく、病気がちな年配男性が暮らしています。
元国会議員だった山本さんの『累犯障害者』を読むと、刑務所の中でも高齢化はどんどん進んでいることがよくわかりますし、刑務所が日本の福祉政策の足りないところを一部補っている実態もわかってきます。山谷の山本さんと、『累犯障害者』の山本さんの距離は近いのです。

セカンドチャンスをもらってもう一度権力の座に返り咲き、独りよがりの政策をごり押ししようとする権力者がいるかと思えば、著者のように、謙虚さをわすれることなく、暗闇の中に生きる人たちへの支援に費やす人がいるということで、いろいろな「先生」がいるものだと思います。

国会議員という華々しい地位から、刑務所入り。刑務所の中では年配の障害者などの「しもの世話」を行い、出所後はライフワークである福祉の活動を地道におこなっていく。ボクにはそんな勇気も粘り強さもないのではないかと思います。逆境が著者を逞しく成長させたというなのかもしれませんが、あえて逆境を求めていく勇気も気力もいまは持ち合わせていないです。