『ぼくが見てきた戦争と平和 』(長倉洋海著)

 先月10日の朝日新聞朝刊の写真特集記事で、フォトジャーナリストの長倉さんの作品を見てちょっとショックを受けた。それはアフガニスタンの英雄・マスードが、山の上で地面に横になりながらひとり静かに本を読んでいる写真だった。本を読んでいる青年がマスードだと知らなければ、ハイキングで山に来たひとりの青年が、美しい自然の中で読書に熱中しているだけの写真に見えるかもしれないけど、それが戦火のアフガニスタンの兵士のひとときだと知った時、その写真はまったく異なる意味合いを持ってくる。マスードと同年代の長倉さんはマスードに同行しながら、このアフガン兵士の英雄の日常生活をカメラに収めていた。その中の一枚の写真。
 時には睡眠2時間で朝から晩まで闘い、住民の苦情を聞き、兵士たちを鼓舞し、作戦を練り、そしてまた闘っていた男が、3000冊の本を持ち、限られた時間の中で本を読み、詩を詠んでいたという話に驚いた。夜は真っ暗な部屋の中、ろうそくの明かりを頼りに、マスードは本の世界に入っていった。だから平和な日本に住む僕らが、本を読む時間がないと言い訳しているなんて、ちゃんちゃらおかしいこと。
 『ほくが見てきた戦争と平和』は、長倉さんがカルチャーセンターで行った講演に写真を加えたもの。お話の内容もいいし、もちろん写真も素晴らしい。アフガニスタンだけでなく、コソボ、アマゾン、エル・サルバドルで撮った写真も紹介されているけど、アフガニスタンのマスードの写真が特にいい。
 山の上でひとり本を読むマスードの写真は本当にいい。この写真が含まれる写真集を入手したいと思っている。