品川正治著「戦後歴程」(平和憲法を持つ国の経済人として)

著者は、2013年8月亡くなった経済人(1924年−2013年)。
日本を代表する損害保険会社の社長、会長として企業経営にあたり、同時に経済同友会の終身幹事として、財界においても活躍した方。
この本は、2013年、岩波の月刊誌「世界」に連載されていた。自伝とも言えるものだけど、残念ながら食道がんによる死去のため、絶筆となっている。
「戦後歴程」
この本の中には、以下のような文章が何度も繰り返される。

「岸内閣の安保改定を阻止することは、あれだけの大動員、民衆参加の闘争にもかかわらず、できなかった。この敗北がもたらした、対米従属から抜け出せないこの国の姿、日米安保から日米軍事同盟に深化していった歴史、全土の基地化、さらには沖縄の人たちをアメリカ軍の奴隷のような状態に置きつづけたこの国の非情を考える時、あの60年安保闘争での敗北の責任の重さを否定しえない」(68ページ)

「アメリカの意向を汲む、アメリカの指示に従う、アメリカには逆らえない、と、日常聞かされ、読まされて60年以上が経った。その言葉はいまも、沖縄の基地問題やオスプレイ配備の問題、さらには日中間の尖閣問題、日韓の竹島問題、さらには脱原発、TPPと、挙げればキリのないほど聞かされている。そのどれもが国民の生活、生命に関わる大問題であるにもかかわらず、政治家・官僚から返ってくる言葉は、『アメリカが承知するだろうか』『アメリカにはたてつけない』である。そのアメリカが金融資本の意のままになる国であるとすれば、日本国民はそんな説明を納得して聞き得るであろうか」(97ページ)

ボクも数年前から経済同友会に入れてもらって、時々夕食会や講演会などに参加させてもらっているけども、いまの経済同友会には、品川さんのような考えや価値観を持つ、あるい共感を覚える会員がどのくらいいるのだろうか?それとも、品川さんのことなど聞いたこともない人たちの方が多くなっているのだろうか?

いま、政治も経済も、あるいは官僚の世界も、恐ろしいほどアメリカへの傾斜をすすめ、バラスのとれた状況からはほど遠い状態になっている。それでもって本当にアメリカといい関係ができているかというと、そうとも言えないところが、日本の危ういところではないのか?

品川さんが、いまのようにお祭り騒ぎとなる前のダボス会議に10年以上にわたって参加されていたこと、シュミット元ドイツ首相とも個人的なおつきあいをお持ちになっていたことなど、視野の広さ、おつきあいの広さ、ご自身の戦争体験に基づいた歴史観など、とても参考になった。

自粛ばかりして権力に何も言えない状況のなかで、このような経済人がいたことは覚えておきたい。