『「世界で戦える人材」の条件』(渥美育子著)

日経ビジネス(2013年8月12・19日号)の書籍紹介のページで知った本。グローバル人材に関する議論にはウンザリしていることもあって、はじめはこの書籍紹介のページもはしょって読んだのだけど、著者の以下のような発言を読んで、強く関心を持った。

「(日本の)経営者が人材育成にあまり興味がないことが気がかりです。人事部門に任せきり。人事も自分の任期中には変化を起こしたくない人が多い。海外赴任前に少しグローバル人材教育をするだけでお茶を濁しているように思います。」

すぐに同じビルにあるクロイヌ御用達の本屋でこの本を買ってみた。PHPビジネス新書。岩波新書じゃないよ、PHPビジネス新書。

期待以上の本だった。学者の本ではないので(岩波じゃないよ!)、文章や論理には荒さはあるかもしれないけども、グローバル化が進行する現在の世界のルールも、なにをすべきかということも、ほとんどの日本人はわかっていない、という彼女の言っていることには同意する。

この本の中で、僕の中で強く残ったいくつかの言葉ある。
そのひとつは、「大きな器」と「日本サイズの心」。

「私たちは、日本で生まれ、育ち、教育を受け、仕事に就くことで、自覚症状がないままに日本の現実を受け止めるのにちょうどよいサイズの心、日本サイズの心を育ててしまっている。」(103ページ)

以前、シリコンバレーで長く働いていたある知人(日本人!)がこんなことを言っていた。「金魚鉢のなかにいる限りは、金魚にしかなれない。」 確かに美しい金魚もいいだろうけども、僕は「大きな器」を持ちたいとずっと希望してきたように思う。問題はもっと強くそう願い、その実現のために、もっと行動していくこと。

この「大きな器」ということばは、以下のようなメッセージでも使われていて、それは日本の大学教育にもヒントになるようなメッセージだ。

『大事なのは、「大きな器」をもつことなのだ。一番大きな器をまず獲得し、そのあと徐々に知識や知恵の詰まった引き出しをたくさん作っていく。日本の大学では、こうしたリベラルアーツをほとん学ばない。体系的に学ばないために単なる知識として終わっている」(154ページ)

著者は人材育成に関するコンサルティング業を、アメリカで長年にわたっておこなってきたという実績がある。世界中の人たちといっしょに仕事をしてきたようだから、単にアメリカではこうですよ、って話ではない。

若い頃、アイオワ州立大学のクリエイティブライティングのコースに参加したことがあると本の中で紹介されている。もともとは、文学を目指していたのだろうか?アマゾンでチェックすると、同じ著者名で、『シルヴィア・プラスの世界』なんてタイトルがあるけど、同じ著者なのだろうか?

グローバル化というような話の中で、以下のような表現がとても新鮮に思えた。

「グローバリゼーションが持つパワーは、内から拡張していく力、つまり自国から外に出ていき他の国と関わりを持つ拡大する力expansion と、宇宙から見た地球という微細な存在の認識、つまり考えられないほど広大な宇宙の中に無数に存在する天球の一つが地球であるという理解が同時存在するところにあると、私は個人的に捉えている。」(72ページ)

僕は政府や企業が先導しようとする「グローバリゼーション」は信じていない。グローバリゼーションは、一人ひとりのこころや姿勢からスタートするものだと思っている。それが個人主義ということでもあるだろうし。

あまり期待していなかったからということもあるけど、この一冊の本をさかなに、日本のグローバル化についてさまざまな議論ができる、いい意味で、controversialな本。多くの人に読まれることを期待。