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『人の子イエス』(カリール・ジブラーン著、みすず書房)

僕はキリスト教徒ではありませんが、イエスには関心を持っている人間のひとりです。仏教徒でもありませんが、ブッダには興味を持っています。

この本はイエスが行ったとされる奇跡をことさらに取り上げることもなく、イエスと会った(はずの)70数名の人間たちの声を借りて、ジブラーンの考える人間イエスを示したものです。

「あのナザレ人は、人々にとって医者だった。あのナザレ人ほど、人体と、その構成要素や特性に精通していた者はいなかった」(ギリシアの薬売りフィレモンが見た、医者・イエス)
「イエスは、天と地の驚異について、夜に咲く天の花々について、日が星々を覆い隠すときに大地に咲く花々について語りました」(カナの花嫁、ラフカが見た、ナチュラリストとも言えるイエス)
「イエスが語る神は、あまりに広大でどんな人間にも似ていないし、全知ゆえに人を罰することをしない」(ペルシャ人哲学者が見た、新しい神を提示したイエス)
「私が認めるイエスは、強大な狩人であり、難攻不落の聳え立つ霊に他ならない」(ナタニエルが語る、権威と力を持っていたイエス)

この本の中で、僕がもっとも好きなイエス像のひとつは以下のようなもの。
「イエスが教えたのは、いかにして人々を束縛する過去のしがらみの鎖を断ち切り、いかにして人が自由になるかということだ」(アンティオキアのサバが語る、自由人イエス)
「あの方が私たちとともにいたとき、あの方は私と世界を驚異に満ちた目で見つめた。あの方の目は、何千年にもわたる伝統によって曇らされておらず、さまざまな古くからの堆積物にも妨げられていなかった。あの方は、若々しい明るさをもってあらゆるものを明晰に見た」(ある哲学者が語る、明晰な観察者としてのイエス)

そしてこの本の中のイエス像が「立体的」であるのは、イエスを嫌い、イエスに反対した人たちのこのような声も含まれているから。

「あの男は、この国の立派な国民ではなかった。保護されるべきローマ帝国の市民でもなかった。だからこそあの男は、ユダヤ王国もローマ帝国も侮蔑した。空を飛ぶ鳥のように、義務も責任もなく自由に生きたいとあの男は望んだ。だから狩猟者が彼を矢で射落とした」(論法家エルマダムが語る、はぐれ者イエス)
「もし、アブラハムの種を継いだユダヤの子孫が繁栄するのが神の御心であるならば、その基盤となる土壌は汚されてはならない。そしてあのイエスという男は、汚染者であり、堕落させる者である」(大祭司カヤバの語る、汚染者イエス)

本書にあるカリール・ジブラーンの略歴を簡単に紹介すると以下のとおり;
1883年レバノン山間部の村で生まれ、1895年貧困の中渡米、ボストンで初等教育を受け、英語を習得。
1898年レバノンに帰国、アラビア語を納め、高等学校で文学と宗教学を学ぶ
1902年再度渡米、1908年から2年間パリでロダンの師事。
1931年にニューヨークで死去するまでに、合計7冊の英語著作。

『人の子イエス』を読むまで、この人のことはよく知らなかったけど、ジョン・レノンが「ジュリア」にこのひとの言葉を引用しているそうだし、神谷美恵子さんが、ジブラーンの詩集『預言者』を抄訳しているとか。
確かに、ジョンのイマジンからはジブラーンのイエスが聞こえてきそう。