『道は、ひらける』(石井米雄著)

 昨夜、『20歳のときに知っておきたかったこと』があまり面白くなかったと書きましたが、決して悪い本ではありません。ただ20歳のひとには、代わって薦めたいのが、この本。去年8月27日付けの日経新聞夕刊で拝見した記事がおもしろかったので、買ってみた本です。著者は、タイ研究の一人者で、経歴からするとすごいエリートのようですが(外務省→京大東南アジア研究所センター所長→上智大学アジア文化研究所所長などなど)、ご本を拝見すると決して近寄りがたい学者ではなく、大学(東京外大)中退、外務省もノンキャリアというかたで、ご自分の関心あることを、ゆっくりと根気づよく勉強されてきた方。1929年のお生まれなので、現在80歳か81歳でしょうか。
 日経新聞の記事で僕がいいなと思ったお話が法学の問題点のご指摘。「法学はある枠組みがあって、その中で論理的な整合性を考える。枠そのものについては疑いを持たない。外務省は東大法学部をはじめ法学を学んだ人がたくさんいますから、法学的思考にはいやと言うほど遭遇しました。」そして「学問は柔軟性や自由な発想が不可欠。予算や評価制度を含めてそれを縛りつけているのが今の日本です。大きな成果には大きなリスクが伴う。大きな判断をするには腹がすわっていないとだめです。日本全部が係長になってしまってはいけません」。また、記事の見出しとなっている、「定説はまち針、縛られるな」という言葉もいいなと思います。
 役所も含めてですが、このようなご経歴の方が存在しうる社会(それは懐が深い社会ということでしょう)であってほしい。カネを持っている人間がえらそうにしている社会はつまらない。