『キケロ_ヨーロッパの知的伝統』(高田康成著)

こういう本を読むと、いかに自分たちのヨーロッパ文化の理解が浅薄で間違ったものになっているのか、読むべき本をわかっていないのか、と思い知らされます。キケロなんて、名前程度で、そういえば岩波文庫にあったけど、特に読んだことなかったな、くらいの無知さ加減からこの本を読み始めたので、とても面白く読みました。
特に、最終章(第5章)の「西洋学の遠近法」の章からは、改めていろいろなことを教わったように思います。

・ 日本ではギリシアがローマよりも重きを置かれているが、西洋文明に大きな影響を与えたのはローマであること。
・ 日本人の読書傾向もローマの文人たちよりも、ギリシアの文人たちに偏っていること。
・ 明治の時代に出会ったヨーロッパ、その時ヨーロッパでの流行りに多大な影響を受けていて、その流行りに至るまでに積み重なっているヨーロッパにおける文化の伝統への理解が乏しいこと。

もう上げていくとキリがないほどですが、以下のような文章は、ぼくのような人間には一撃となってこたえます。

 「米英文化の輸入超過は、映画からポップ・ソングまで、あまりにも明らかであり、その根底には英語を媒介としたアメリカン・カルチャーの遍在ということがあるだろう。そして、「キャピトル・ヒル」を首都にもつ国の文化を、その根底にまでたどって、カピトリヌスの丘をもつ文化との関連で見る人は、少なくともわが国では、少数派に属する。」

日本が、あるいは日本人が、まっとうな西洋理解にたどり着けるまで、あと何世紀かかるのだろうかというのが読後の感想の一つですし、西洋だけでなく、東アジア各国の理解さえも怪しいのではないかという恐ろしい気持ちにもなってきます。