「海岸線の歴史」(松本健一著)、「日本社会と天皇制」(網野善彦著)

日本はずっと単一民族で百姓の国だったと信じ切っている人たちもいるのかもしれませんが、ぼくはあまりそれを信じていません。
確かにアメリカやヨーロッパの一部の国のように多数の移民が国民の何割かを占めたり、さまざまな肌の色の人が歩き回っているようなところではありませんが、2000年、あるいは3000年の日本の歴史は決して日本列島の中だけで完結してきたのではなく、朝鮮半島や大陸との東アジアの国際関係は時代による程度の差はあれ、つねにダイナミックな動きをしてきたと思っています。百姓は100の姓を持つ人たちで、いろいろな手仕事や家仕事をやってきたし、日本人=農耕民族というイメージはぼくのなかでは決してすべてではない。

最近読んだ本で面白かったのがこの2冊。網野先生の本はこれまでも何冊か読んでいますが、この本は岩波ブックレットのシリーズの一冊で、講演を本にしたものでもあって、ちょっと物足りないのですが、面白い内容です。

松本先生の本は、海岸線から日本の歴史をとらえた本。ユニークな視点。「日本の海岸線をぜんぶ合わせると、アメリカの海岸線よりも長く、1.5倍、中国の海岸線よりもはるかに長く、2倍に達するのである」ところが、「現在では、日本ぜんたいの8割くらいの海岸線には防波堤が造られている印象である。(中略)コンクリートの防波堤は、津波や高波などから船や陸上の家や田畑を守るために必要なものとして造られたのではあるが、これによって海辺に住み、労働し、遊び、祈る、ということが、日本人の暮らしから遠くなって久しい」

松本先生のこの本が出たのは、2009年。3.11の2年前です。