「真実という鏡」

今日の朝日新聞「ニュースの本棚」のコーナーに、言語学者の田中克彦先生が文章をお書きになっていた。大学時代の好きだった先生の一人。「大学と人文学の伝統」というテーマの文章。人類学の鳥居龍蔵(1870ー1953)と東洋史学の前嶋信次(1903−83)の紹介をされたあと、J.S.ミルが講演(「大学教育について」)でおこなった以下のような趣旨の警告を紹介されている。

「自分自身と自分の家族が裕福になることあるいは出世すること」を「人生最高の目的」とする人たちに大学が占領されないよう、絶えざる警戒が必要である。

そして田中先生は、以下のようなメッセージで文章を終えられている。

「今の日本の政治を担う人たちは、かつて大学生であったとしても、大学が学生に与えるべき最も大切な経験ー真実という鏡の前で自らの精神のくもりに気づくという知的・心的経験を一度として味わわなかったのであろう。だからこそ、もうからない人文学を大学から追放しようという、先人の築いた日本の伝統を破壊へと導きかねない発想が表れるのであろう。」

時として「真実という鏡」の前に立つことを必要とするのは大学生だけじゃない。