『運命の人1、2』(山崎豊子著)

 外務省機密漏洩事件を小説にした山崎豊子の最新作。沖縄返還をめぐって、今に至っても日本の外務省が否定し続け、アメリカ側では公的文書が公表され、その存在が広く知られている密約。それをスクープした毎日新聞の西山記者を巡るフィクション。政治家たちも含めて、登場人物たちの名前は変えられていますが、誰のことか簡単に分かります。
 日本政府はアメリカとの対等の関係を口にしますが、残念ながら、現在にいたるまでアメリカの僕(しもべ)としての関係はずっと続いています。戦後60年以上もたつというのに、実質的な
アメリカの日本占領政策はまだまだ続き、われわれ日本人も防衛をアメリカに任せきって金儲けに集中することで、自立した国家としてのとても大切なものを失ったままになっています。ボクら国民も、無意識のうちにアメリカの指示を求め、その枠内で行動することで安心してしまっています。
 この事件が起こった1972年前後、ボクは中学生だったように思いますが、この事件はその後の展開も含めて、ボクにはとても大きな戦後の出来事のひとつです。毎日新聞の西山記者は、社会的な地位も家族もすべて失い、福岡の実家にお帰りになったまま、ずっと自分の名誉回復のための裁判闘争を続けてきたようにお聞きしています。取材方法に問題があったとはいえ、彼が行った問題提起は、今も日本の存在のありかたへの問いかけをボクらに突きつけているのに、この事件を覚えている人、関心を持っている人は少なくなっているのではないかと思います。
 『運命の人』3、4巻目の発売を楽しみに待っています。
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西山事件