『商いの道_経営の原点を考える』(伊藤雅俊著)

 今のような経済環境においてこそ、変わらない価値を持つ本を読み返していきたいです。この本は、イトーヨーカ堂の実質的創業者が、経営、ビジネス、さらには生き方に関する指針を示してくれた本です。10年前に出された本ですが、まったく色あせない内容です。非常にやさしい、分かりやすい言葉で、経営の本質を語られていると思いました。さらに、著者がマクロ経済に関して書かれている考え方は、現在にも完全に当てはまります。具体的には、政府との関係が深い産業に競争力がなく、供給過剰の問題を抱えていること、バランスを欠いた短期的な株価至上主義が健全な会社の成長の妨げになっていること、好不況の波があることは必然で、「森が山火事で焼けると新しいものが生えてくる」こと。
 ダイエーの中内さんと好対照なのが、伊藤さんだったと思います。中内さんが男性的で荒っぽかったのに対して、伊藤さんは女性的で非常に手堅かった。中内さんが、松下幸之助と大げんかをしたのに対して、伊藤さんは松下幸之助を尊敬し、師としていたこと、中内さんが不動産投資にのめり込んでいったのに対して、伊藤さんは非常に慎重だったことも面白いほど正反対のおふたりでした。
 経営という意味では、伊藤さんにはたいへん見習うところがあると思っています。(ただ、ボクは中内さんには、伊藤さんとは違った意味で魅力を感じています。佐野真一さんが書かれた『カリスマ』に対して、中内さんは一時名誉毀損で訴訟をされていたように記憶していますが、ボクはこの本を読んで中内さんのファンになりましたから。)