『サミング・アップ』(モーム著、岩波文庫)

 この10年、20年くらいの大学入学試験の英語には、どんな文章が出ているのでしょうか。僕が大学入試を受けたのは1979年ですが、参考書は、英文標準問題精講(旺文社)と新々英文解釈研究(研究社)を使いました。そのふたつともに、モームの文章が含まれていて、それもかなり重要な位置をしめていたように記憶しています。かつて、大学入試の英語には、モームは必読の作者の一人でした。
 最近は、「コミュニケーション英語」とかが重要だということになっているので、モームなんて、時代遅れなのかもしれませんが、中身はおもしろいです。かなりおもしろいです。大学入試に使われたから、ダメだなんてことは、まったくありません。(口パクで中身のない「コミュニケーション英語」なんかより、ずっとためになります。)
 本書は、64歳のモームが、自分の人生を振り返って書いたエッセイ集です。皮肉屋さんで有名だったモームですが、単に、人間を率直に観察し、描写しただけのこと。真善美を論じた結論は、ある意味、とても平凡なのですが、でも、普遍的なことは往々にして、シンプルで退屈なこともあるから。
 モームについては、もうひとつ思い出があります。一橋大学の中和寮の一階の部屋に、「『月と6ペンス』を読め。まだ人生のやり直しはできる。」という落書きがあったことを覚えています。(確かに、大学生は、やり直しはできるね。もう50近くになると、できないけどね!)『月と6ペンス』は、モームがゴーギャンをモデルに書いた小説。株の仲買人から絵描きになったゴーギャン。落書きの張本人はなにしているのかなと、その時、思ったことを、まだきのうのことのように覚えています。
 最後に。今月の岩波文庫で、『モーム短編選_上』が、同じ訳者(行方昭夫)の仕事で出ています。