『ジェネラルパーパス・テクノロジーー日本の停滞を打破する究極手段』(野口悠紀雄、遠藤諭共著)

 僕が大学生の頃、マクロ経済学の入門書が多いに売れたNという先生がいます。いまでもしばしばテレビや新聞に出る方で、経済学者からいつの間にか経営学者になっています。この先生のお話を小さなサークルでお聞きする機会があったのですが、「私はアメリカに洗脳されていた。日本にはアメリカのような市場主義経済は合わないし、アメリカや中国のような、二枚舌の政治はできない。日本のリーダーシップは歴史的にみても、徳治主義でないといけない。」というような話をきかされ、あきれました。(洗脳されていたうんぬんは、サービス精神から、おもしろおかしく発言されているのかと思いますが)日本国内の政治や財界には、二枚舌のおえらさんたちはいないのだろうか?!単に、役者の違いで、アメリカや中国の政治家相手に大芝居をうつことができないだけじゃないのか?「先祖帰り」してしまったこの有名タレント教授の話には、あきれてしまいました。
 それに引き換え、野口先生は徹底的にシリコンバレーのビジネスモデル、経営手法や哲学を日本の大企業や政府に対比させながら、日本の経営層(公的部門の経営層も含め)が既得権を守りながら、新しい環境に対応しようとしないという批判を続けています。日本社会が、IT革命がもたらした新しい情報、通信システムに適合しようとしていないことを、繰り返し述べています。このあたりのことは、ここ数年の野口先生のすべての著書に共通しているテーマです。
 野口先生は僕が大学在学中に一橋で教鞭をとっていました。先にあげたN先生も、他大学を経由して、一橋で教えていらっしゃいました。野口先生も、学者からいつの間にか、ベストセラー作家になられていますが、先祖がえりのN先生と違って、少なくとも現状に対する批判精神を維持されているところは評価しています。